教室のドアが閉まる音に、ハッと我に返った残された面々は


「おい、どうなってるんだよ、あれ?」


「今日はエイプリルフ-ルじゃねぇんだぞ。」


と騒ぎ出す。


「七瀬、どういうことよ?」


「柊木は七瀬と付き合ってるんじゃないの?」


そう友人たちから詰められて


「さっき大和が言ってた通り、私とあいつはただの幼なじみ。だからあいつの彼女の公開募集に協力したんだもん。その結果、最高の彼女が出来たんだから、よかったじゃない。」


七瀬は答える、答えるしかなかった。どういうことよ?・・・本当にそう言いたかったのは、他の誰でもない、七瀬自身だった。


こうして、大和と弥生は本当に恋人同士になってしまった。その現実を七瀬が突き付けられたのは、翌朝のことだった。いつものように、大和を迎えに、隣家のインタ-フォンを鳴らした彼女に


「大和はもう出掛けたのよ。なんか、昨日出来た彼女さんと待ち合わせしてるからって。」


困惑の表情を浮かべた大和の母親である礼子(れいこ)から、そう告げられたからだ。


「そ、そうなんですか。」


「ごめんなさいね。七瀬ちゃんがいるのに、別の彼女さんなんて、あの子何を考えてるのかしらねぇ。」


申し訳なさそうに言う礼子に


「ベ、別に私と大和は、そんなんじゃないんで。じゃ、失礼します。」


そう答えて、七瀬は走り出す。居たたまれない気持ちだったのだ。昨日まで大和と一緒だった通学路をひとり急ぎ、辛うじて遅刻寸前で教室に駆け込んだ七瀬に


「おはよう、遅かったね。」


大和が声を掛けて来る。


「あんた、何で、私になんにも言わないで・・・。」


思わず文句を言い掛けたが、彼の横にいる弥生の姿が目に入った途端、それ以上何も言えなくなって、席に着く。長い間、一緒に登校していたのに、あんまりだという思いはあったが、その一方で、それが当たり前なのかもしれないし、なによりそうなるキッカケを作ったのは、自分自身なのだという思いが、七瀬にそれ以上の言葉を呑み込ませたのだ。


まもなく始まった夏休み。部活の練習に忙しい七瀬に対して、今までなら、彼女が連れ出さない限り、引きこもりの夏休みを過ごしていた大和も、弥生とデートを重ねているようだった。