そして2人はいつも通りに、肩を並べて登校し、教室に入り、授業を受けた。


「ねぇ?」


この日は夏休み前の短縮カリキュラムで、授業は午前中で終わる。2限と3限の間の中休み、七瀬は大和に声を掛けた。


「うん?」


「昨日の話の続きなんだけどさ。」


「えっ?」


「大和はさ、本当に彼女欲しいの?」


真っすぐに彼を見て、七瀬は尋ねた。


「う、うん。」


周囲に聞かれたくなかったのだろう。大和は曖昧に小さく頷いた。その瞬間、七瀬の気持ちは固まった。


「わかった。じゃ、協力してあげる。」


「えっ?」


「今日の放課後、楽しみにしててね。」


「お、おい七瀬・・・。」


いきなり何を言い出したのかと、戸惑う大和からサッサと七瀬は離れる。


(大和に現実を見せてやるんだから。)


七瀬は怒っていたのだ。


やがて。終礼のSHRが終わり、担任が教室を出たのと同時に、生徒たちも動き出そうとした時だった。


「ごめんなさい、ちょっと待ってもらっていい?」


七瀬が声を上げる。何事かと振り返るクラスメイトの前で、大和に近付くと


「さ、行くよ。」


と言って、彼の手を引いて歩き出す。


「お、おい、一体なんだよ?」


当然、大和は戸惑い、クラスメイトたちは好奇な視線を向けて来るが、構わず七瀬は教壇に大和と共に立った。


「女子のみなさん。」


七瀬は呼び掛ける。


「今、私の横にいる柊木大和が、彼女を募集しています。」


「ちょ、ちょっと七瀬、何言い出すんだよ。」


慌てる大和に


「だって、彼女欲しいんでしょ?だったらみんなに呼び掛けなきゃ、大和にはとても無理でしょ?」


平然と言い放った七瀬は


「誰か、大和の彼女に立候補して下さる人はいませんか?」


そう言って、改めて教室を見渡す。そんな彼女の言葉を聞いた途端に、何事が始まったのかと、驚きながら成り行きを見守っていた面々の間に冷ややかな空気が流れ、嘲笑が巻き起こる。


「ほら、大和も自分でアピ-ルしなよ。」


その様子を見ながら、七瀬は横の大和を促すが、彼は顔を真っ赤にして俯くだけ。その姿に、さすがに可哀想だったかなという思いがよぎった七瀬だったが


(でもこれでわかったでしょ?大和には私しかいないんだよ。あなたと一緒に居たいと思う女子なんて、私だけなんだよ、大和。)


内心で悦に入っていた次の瞬間だった。


「はい。」


という声と共にすっと一本の手が挙がった。