今、私は隣り町の雑貨屋で働いている。

 仕事をしなければお金が手に入らない。
 おばあちゃんが私に遺してくれていたお金もあるけれど、それほど多くはない。私はこの先一人で生きていかなければならないのだ。働かなくては……。
 それに、忙しくしていれば余計な事を考えずに済む。そう思っていた。

 けれど、彼は王様。
 若く美しい王様は国民からとても人気があり、彼の絵姿があちらこちらで売られている。
 もちろん私が働く雑貨屋でも売られていた。
 それに売り切れても、毎月のように新しい絵姿が売り出される。

 どうしても目に入ってしまう。

 結局、忘れる事ができないままの私は、他の人に目を向ける事も出来ずにいた。



 いつものように店先を箒で掃除していると、店のおばさんと常連のお客さんが私に話かけてきた。

「メアリーちゃん、聞いた? リシウス陛下、婚約が決まったそうよ」
「婚約……」

 ドキリとした。
 いつかはそういう日が来ると覚悟をしていたけれど、実際に聞いてしまうと、思いの外動揺してしまった。
 けれど、何とも思っていない様に、箒を動かし続けた。

 私の母親ほどの年であろう常連客は、大袈裟に思えるほど驚いている。

「えーっ、何処の姫さまなの?」

(姫様なのね……)

「それがよく分からないのよ」

(姫様じゃないの?)

「ま、どんな人でも羨ましいわね。あんなに美しい男の人他にいないじゃない。ウチの旦那と大違いよ!」

「あはは! リシウス陛下はまだ若いじゃない。あんたの旦那と比べるなんて、余りにも違い過ぎて旦那が可哀想よ」
「あはは! それもそうね」

「リシウス陛下は美しいだけじゃないものね。あの方が王様になってから、この国は凄く良くなったしね」

「本当、暮らしやすくなった。それに外国からも珍しい物が入るようになって、おかげでうちの店は繁盛してるわ。ね、メアリーちゃん」

「はい」

 私が働く雑貨屋では外国の商品も扱っていた。
 最近隣国から入ってきた、ビーズと呼ばれる色ガラスで出来た小さな丸い石をいくつも連ねて作られた腕輪は、若い女性の間で人気となっている。

 それをたくさん腕にはめている常連客は、城の方に顔を向けた。

「本当、見た目も頭も良い王様だわ。そんな人の相手ってどんな方かしら」

「ねぇ、メアリーちゃんもどんな方か気になるでしょ? ね?」

「そ、そうですね」

「メアリーちゃんもやっぱり気になる? 王様のお相手になる方なら、きっと凄く美しい方に違いないわ」

「そう思います」