「後ろでラティを守るのは、僕と契約した神竜バハムートと神獣フェンリルだ。さらに僕ひとりでも、この大陸を吹き飛ばすくらいはできる。戦争したところで帝国に勝ち目はない」

 フィル様は諭すように皇太子へ言葉を続けた。
 皇太子もそこは理解しているようで、項垂れたまま無言を貫いている。

「…………」
「お兄様! ねえ、どうにかしてよ! ちょっと、お兄様!?」
「……りだ。……無理だ!! こんな化け物みたいな魔力を持つ奴を相手にするなんて、無理だっ!!」
「そんな、じゃあ、わたくしはどうなるの!? このまま戻ったら、勝手に婚約破棄したからと幽閉されて毒杯を送られてしまうのよ!?」

 エルビーナ様の絶叫に近い言葉に胸が痛んだ。確かにあんな形で婚約破棄したのは許せることではないけれど、毒杯を賜るなんて行き過ぎではないだろうか?

「知るか! オレだって命は惜しいんだ!!」
「なによ!! なんでお祖父様やお父様の尻拭いをさせられるのがわたくしなの!? 自分たちは好きな相手と結婚したくせに、どうしてわたくしは結婚相手すら選べないの!?」