今度はエルビーナ様が、皇太子に噛みついて大勢の目があるにもかかわらず、兄妹喧嘩を始めた。

「うるさいっ! 元はと言えばお前が勝手に戻ってくるからだろう!!」
「なによ! お兄様だってこんな田舎の小国はわたくしには似合わないと言っていたじゃないの!!」
「黙れ! お前のせいで、オレまでこんな田舎まで来ていい迷惑なんだ!!」
「——いい加減にしてくれる? ここで言い争ってないで帝国へ帰れば?」

 フィル様が短いため息をつく。先ほどまでの緊迫感はすっかり消え失せ、いつもの飄々とした様子のフィル様に戻っていた。
 そして今までは私の前だけで出してきた腹黒王太子の顔もオープンにしている。もう隠す気がなくなったのだろうか。

「皇族が相手を選ばず婚姻をしてきたせいで、魔力量が減少しているのは知っている。だからこそヒューレット王国と僕を選んだのもわかっている」
「そこまで調べていたのか……」

 皇太子はガックリと項垂れた。
 皇族の魔力が少なくなれば、帝国の情勢は安定しないだろう。かつて大陸一の魔力量を誇った王族が周辺国をまとめ、帝国へと成長させたのだ。
 その根幹が揺らげば、反乱が起きてもおかしくない。だから皇太子もエルビーナ皇女も必死だったのだ。