――キィィィィィッ!

 最後尾の荷を積むラクダが甲高い断末魔を上げた。三頭ずつ繋がれ並列した六頭の内の、シュリー側のラクダがどさりと倒れ込む。振り向いたシュリーは自分のラクダに繋がれたロープを手繰り寄せ、背後のラクダから急ぎ荷を取りロープをほどいた。

 静けさを湛えていた砂の海は、刹那荒々しいドールの咆哮に包まれた。倒れたラクダの上には数匹のドールが群がり、(むさぼ)るように皮を肉を噛みちぎった。次の標的はナーギニー側の最後尾、後方から襲われたそれも一瞬の内にバランスを崩し、シュリーはナーギニーを乗せたラクダの背後に手を伸ばして、ロープを解き放つのがやっとであった。

「早く! お願いだから逃げて!!」

 シュリーは自分のすぐ後ろで歩みを崩さない使者に、顔を向け悲痛な願いを叫んだ。けれどそれも今までと変わらず、返事もしなければ逃げようともしない。仕方なく彼女は使者の持つ、ラクダを操る長い棒を奪い取った。その棒で真ん前の馬の尻を思い切り突く。驚いた馬は侍従を乗せたまま、一気に駆け抜け消え去った。前方を確保したシュリーとナーギニーのラクダは、同じく棒で尻を叩かれ、ドールの攻撃から僅かに引き離された。