もうダメ。

真っ黒い池の中に飲み込まれてしまう。

と思ったその時、



「……っ……!!」



先頭を行く如月くんが、まるでハードルの選手かと思うかのように軽やかに柵を乗り越え……沈みかかっていたその人の体を水中から引き上げた。

倉本くんと龍泉寺くんも柵を越え、ずぶ濡れになりながら手を貸す。


……助かった。

自ら柵を越えた人も、如月くんも、倉本くんも龍泉寺くんも……みんな助かった。



「……よかっ…たぁ……」



へなへなとその場に座り込む沙綾ちゃんと穂乃果ちゃん。

茫然自失の状態の二人を支えるように、私もしゃがみ込んだ。


……心臓がドキドキと大きな音を立てている。

落ち着け。

大丈夫。 もう、平気。

あの人は助かったし、助けに入った三人も無事だ。

深呼吸をして、落ち着いて行動していこう。



「……二人とも、大丈夫? 立てる?」



そう声をかけると、沙綾ちゃんが苦笑気味に首を横に振った。



「ごめん、今はまだちょっと無理……腰抜けちゃった……」

「ううん、いいよ。 少しこのままで居よう。 穂乃果ちゃんは大丈夫?」



と声をかけるけど、穂乃果ちゃんは震えながら首を横に振るだけで、それ以上のアクションは無かった。

それはそうだ。

あんなショッキングな場面を見たら、腰は抜けるし怖さで震えが止まらなくなる。

それが普通だよね。


……多分、冷静に喋りかけてる私が異常なんだ。

私が普通の人だったら、きっと二人と同じようにただただ震えてるだけだと思う。

でも私は、普通ではないから。

他の人には見えないモノが見えていて、それを周りに悟られないようにと過ごしてきた。

だからショッキングなものを見ても、冷静で居られる…というか、気持ちが落ち着くまでの時間が極端に短いのだと思う。