「……っ、咲玖、」


私に向かって手を伸ばし、何か言いかけた蒼永。
でも、よく通る大きな声がかき消した。


「蒼永!帰ってきたか!」


蒼永のおじいさまだ。その隣にうちのおじいちゃんとおばあちゃんもいる。


「…じいちゃん、ただいま」
「待っておったぞ。強くなったんだろうな」
「まあ、それなりに」
「そうか!さあさあ、話を聞かせてくれ」


おじいさまはいつも以上に上機嫌。久しぶりの孫との再会だもんね。
私も蒼永と話したいけど、後でゆっくり話せたらいいか。


* * *


「ん〜!おいしい!」


フレンチのコース料理は普段食べられない、珍しくて美味しい料理のオンパレードだ。


「咲玖、ついてる」


蒼永が私の頬についたソースを拭う。


「ん、ありがとう」
「…………」
「ははは、相変わらず二人は仲が良い!許嫁同士良いことだな」


おじいさまは豪快に笑った後、思い出したように言った。


「そうだ咲玖さん、引っ越しの準備は終わっているかな?」
「引っ越しですか?」
「うむ。聞いているだろう?蒼永と二人で生活すると」
「えっ」


何それ、初耳なんですけど????
ポカーンとしている私を見て、おじいさまが怪訝そうに私の家族に尋ねる。


「おいおい、話しておらんのか?」とおじいさま。
「いや、家内が話しているものだと」とうちのおじいちゃん。
「私は巧が話していると思っていましたよ」とおばあちゃん。
「え、ママから言ったんじゃないの?」とパパ。
「あら、パパが自分から話すって言ってたじゃない」とママ。


つまり……、みんなで押し付け合って結局誰も話してないってことじゃない……。


「聞いてないんですけど!!」
「全くのんきな一家だ…。まあとにかく、蒼永も帰って来たことだし、将来を意識して二人で暮らしたらどうかと思ってな」
「もう住むマンションも決めてあるんだよ。すまないねぇ、咲玖」


ものすごく事後報告!!
ほんとにうちの家族ってば!!


「大丈夫よ。学校から近い物件をおじいちゃんに選んでもらったから。徒歩圏内になるわよ」
「でも、私料理苦手なんだけど…!」
「俺作れるよ」
「そうなの!?」
「寮母さんがいない時はたまに自炊してたし…」
「す、すごい…」
「洗濯とか掃除も自分でやってた」

あれ?久しぶりに会った幼馴染がなんかめっちゃハイスペックになってない?
流石ずっと寮生活してただけあるな…。