「花、手見せて。」
お弁当を食べ終えた柊生はふと花にそうお願いしてくる。

手?
手がどうかしたのだろうか?

花は不思議に思いながらも、両手を柊生の目の前に差し出す。

柊生はおもむろに左手を掴み目線を寄せる。
それは、この前、切った指の傷を確認する為だったらしく。

光に透かしながら真剣な顔で確認している。

「少し跡が残ってるな…。」

「でも、もうだいぶ薄くなったし、じっくり見ないと分からないくらいだよ。心配しなくても平気だよ。」

傷口を見つめ愛おしそうにそっと撫ぜるから、それだけで花はポッと顔が赤くなってしまう。

「で、明日は何時に会う予定なんだ?」

突然お見合いの事を聞かれたので、1テンポ遅れて返事する。

「えっと、夕方18時からだったかな?」

「どんな格好で行くんだ?」

「うーん…。普段着って訳にはいかないから、ワンピースかなぁ。まだ決めてないけど…。」

「ジャージで充分だ。着飾って行かなくてもいい。10分で終わらせて帰って来い。」

柊生の嫌そうな顔を見て花は苦笑いする。

「ホテルのラウンジだから、さすがにジャージは入れて貰えないよ。心配しないで、大丈夫だよ。」

「相手はそれなりの地位のある大人だ。侮るな、隙を見せるなよ。」

「柊君はお相手の人を知ってるの?」

「まぁ、親父から聞いた話しだと大体の検討は付く。」

「どんな……?」
そう言いかけた花の言葉に柊生は被せてくる。

「花は何も知らなくていい。
花の明日の任務は、お見合いを断って、10分以内に俺の元へ戻る事だ。」

10分以内?
それは相手にいくら何でも失礼では無いだろうか。
首を傾げて考えるけど、柊生の強い眼差しを感じて慌ててこくんと首を縦に動かす。

柊生はよしよしと優しく花の頭を撫ぜ、今まで見た事も無いくらい優しい表情で微笑む。