「美味しい?」

パクパクとお弁当を頬張っている柊生の食べっぷりに、花は作って来て良かったと思う。

「美味いに決まってる。もう2度と、花の作ったご飯は食べられ無いと思ってたから。」
柊生がそう言ってくるから、そこまで思い詰めてたんだと心が痛くなる。

「じゃあ。これからは毎日でも食べに寄っていいからね。」
 
そう言うと、嬉しそうに柊生が笑う。

「毎日花の手料理なんてそんな贅沢して許されるのか?花には毎日会いたいけど、そんなに頻繁に行ったら康生になんて言われるか…」

「康君?何で?」

「あいつ、俺が花の事好きなの知ってるから。」

「えっ⁉︎」

知らなかった…そんな風には見えなかったけど…。
 
「多分な。だから、隠さなくてもいいと思うが…。
まぁ、親には様子を見て話すよ。」

あと、と付け足しのように、
「花と付き合うなら結婚も視野に入れてるから。そのつもりで。」

「えぇっ?……け、結婚⁉︎」

付き合う事さえもまだ夢みたいなのに…
け、結婚って……

「兄として、花を託すならちゃんと、先の事も真剣に考えてる奴じゃないと渡せない。」

うん?何から目線?
真剣な顔で言うから逆に笑ってしまう。

「ふふっ。自分の事なのに?お兄ちゃん目線?」

「もし、他の奴に託すならって話だ。でも、もう誰にも渡さない。」

サラッと言ってるけど…

まさかの独占欲全開の柊生に、どうしようも無くドキドキが止まらない。

恋愛上級者の柊君に、恋愛初心者の私ははたしてついていけるんだろうか?

若干の心配はあるけどもう元には戻れない…前に進むしか無いと、花は思う。

「あと、俺と結婚しても幼稚園の先生の夢は捨てなくていいからな。旅館に縛られるのは俺だけで十分だ。」

「…まだ頭が追いつかないけど…私、別に旅館の仕事はしてみたいよ?」

「しなくていい。俺の事だけ考えて花は好きな事して、生きて欲しい。」

どうしてみんな私の気持ちも聞かないで、旅館から離そうとするんだろう。

そんなに大変な仕事なのかなぁ。