「もう、離してやれない。」

柊生はそう言って、優しく頬に触れる。

大きな手は熱くて、花が流した涙の跡を消していく。
 
花は、柊生の胸に顔を埋め抱きつく。
「…これは、夢?」

ボーっとなった頭で必死で考える。

「俺だって信じられないけど、花を失わなくて良かった。…ありがとう、会いに来てくれて。」
さっきまで、花の事はキッパリ諦めなければと苦しい思いで邪心と戦い、無心に矢を放っていた自分に教えてやりたい。

花はふわふわする頭で、でも確かに実感するぬくもりに、抱き締められる力強い腕に、息遣いに、
低く落ち着いた声に、確かにここに柊生がいる事に安堵した。

勇気を出して良かった…柊君を失わなくて良かった。


そして、もう一つ言わなきゃいけない大切な事を思い出す。

「…柊君あのね。明日、あの……お見合いの日で…。」

途端に柊生が渋い顔になる。

こんなにも心が透けて見える柊生を知らない花は驚く。

「えっと…それで、ちゃんと断ってくるからね。
…あんまり、怒らないで……。」

柊生はため息を吐いて花を見る。

「花は流され易い。上手く丸め込まれたら嫌だとは言えないんじゃないか?」
鋭い所を突かれるが、

「大丈夫だよ。会うだけあったら先方だって、こんなお子様お断りだと思うよ。」

はぁーっと柊生はまた大きくため息を吐く。
花はまったく自分を分かってない。

どんなに魅力的なのか、子供になんて見える訳が無い。