「はい。これで苺5箱だ。また祭り当日にも3箱届けるよ」
ドサリと音を立てて苺が満杯に入った箱を下ろすと、甘い香りが店の中に広がる。苺だけでなくたくさんの果物を使ったジャムやお菓子が評判のこの店は、俺の果物屋のお隣さんだ。
「おお! つやつやで香りも良くて、甘そうな苺だな! 5箱は重かっただろう。新作のケーキ食べてけよ」
俺の家は親父の代で農家から果物屋になって、30年はここに住んでいる。この隣の店は10年前に「変わった果物を扱ってると聞いて便利そうだから」と、引っ越してきた。
3年前に亡くなった親父なんか最初は「俺の店の果物を使って、まずいジャム出しやがったらただじゃおかねえ」なんて言ってたが、この店のジャムを食べたとたん「俺の店の果物を使ったと宣伝しろ」だもんな。親父が寝返るくらいのジャムの味はあっという間に街で評判になって、今では貴族まで買いにくるほどの有名店だ。
「ちょうどここが届け先の最後だったから、たすかる」
「何が最後だ! 開店前の空き時間を狙って来てるくせに」
「新作の評判を気にして、誘ったのはお前だろう?」
「付き合いが長いと、これだから嫌なんだ」