「はあ……魔術ができて良かった」
「お、お嬢様!?」
全速力で走ったことと転移で魔力を多く使ったせいで、ぜえぜえと息を荒くしてベッドに倒れ込む。お気に入りのベッドカバーを見て無事に転移が成功したことを確認すると、ホッと一息ついた。成功して良かった。
そんな疲れ果てている私を見て、クローゼットを整理していたメイドのマリーが急いで駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか? お嬢様!」
「大丈夫よ! それより私が良いと言うまで、誰も部屋に入れないで! 悪いけどあなたもよ!」
「は、はい!」
マリーは大慌てで部屋から出ていき、私はエドワード様が転移で追ってこないよう、急いで部屋に結界を張る。
「こ、これで、ひっく、思う存分、泣けるわ」
部屋中に響き渡る声で号泣していると、今度は抑え込んでいた怒りが出てくる。本当に私って自分勝手。エドが言ったことは間違ってないのに。頭ではそう思っていても、湧いて出てくる怒りは止められない。
「何よ! あんな完璧な王女様がいるなら、初めから私と婚約しなきゃいいじゃない! それにエドが私を選んだのに!」
クッションを掴みボスボスとベッドに叩きつけていると、無意識に持って帰ってきたバスケットが目に入る。色とりどりの美しいケーキと不格好な手作りクッキー、上品なドレスと普段着ドレス。悲しいほどに惨めな自分を思い出すと、また涙が出てくる。