竜王と呼ばれている人が、私に近づいてきている。それだけは理解できたけど、わかったからって状況が良くなったわけじゃない。むしろ「王」と呼ばれているこの人の機嫌を損ねたら、私は殺されてしまうのではないだろうか? 徐々に近づいてくる靴音が、まるで処刑台へのカウントダウンのように聞こえ、私の体はガタガタと震え始めた。
(ど、どうすればいいの? 私、何も悪いことしてないのに!)
カツンと大きく靴音が鳴り、私はハッと目を開いた。目の前には成人男性くらいの大きさの、豪華な刺繍がほどこしてある靴が見えた。きっとこの靴の主が「竜王」なのだろう。
「顔を上げろ」
その言葉にそろそろと上を向いた。下から上へゆっくりと顔を動かすと、私の瞳は目の前の人の姿を捉えていく。最初に目に飛び込んできたのは、ひと目見ただけで上質だとわかる赤い服だ。