(もしかして、ここって日本じゃない……?)


 それでも言葉は同じ日本語のように聞こえる。それに私は転ぶ前、普通に道を歩いていただけだ。バイトの買い出しの帰り、東京の人通りの多さにうんざりし、裏通りを歩いていて、そして……。


(たしかスマホが鳴って、ポケットから慌てて取り出そうとしたら、お財布が落ちたのよね。そしたら誰かぶつかってきて……。ダメだ。そこからは思い出せない。何か声が聞こえた気もするけど……なんだっけ?)


 そんなことを考えていると、私を取り囲んで口論していた人たちが、いっせいに黙り始めた。


「もうよい。下がれ」


 その威圧感のある声が部屋に響いた瞬間、辺りに緊迫した空気が漂い始める。さっきまでの騒がしさは気配すら無くなり、水を打ったように静かだ。そしてそんな静まり返った部屋に、今度はカツカツとこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。


「竜王様、近づきすぎです」
「フン。こんな小娘に何ができると言うのだ」