静まり返ったホールに、怒りのこもったリディアさんの声が響いた。


「リ、リディア様!? なぜここに?」


 ギークを連れて行こうとしていた足を止め、騎士がリディアさんのほうを振り返った。


(リディア()?)


 カツカツと足音を立てこちらに駆け寄ってくるリディアさんの姿は、遠目からでも怒っているのがわかった。出会ってからというもの、リディアさんはいつも物静かでほほ笑みを絶やさない人だったのに。今は眼光鋭くにらみつけるように、二人の前に立っていた。


「わたくしは、迷い人であるリコ様のお世話をさせてもらっています。あなたたち、まさか失礼なことをしていないでしょうね」
「い、いいえ、俺はそんなこと……!」


 ギークの行動を止めていた騎士は、あわてて否定し始めた。反対に私に嫌がらせをしていたギークは、呆然とした顔でリディアさんを見ている。小さな声で「なんでこんな女にリディア様が」とつぶやいたのが聞こえた。


 リディアさんにも聞こえたのだろう。ピクリと眉を動かすと、一歩前に出た。彼女の表情はさっきよりも一段と険しくなり、私はあわてて二人の間に割って入った。