「あなたの楽器の音じゃないの!」
「えっ? 楽器?」


 奥さんの説明によると、こうだ。


「実は数ヶ月前に、隣国に旅行に行ったんです。そこで主人がどうしても欲しいと、ある楽器をお土産に買ったのですが……」


 そう言うと奥さんは、チラリと自分の夫のほうを見る。旦那さんもようやく思い当たったのか、顔を赤くしてボソボソと話し始めた。


「隣国に行った時に、珍しい弦楽器を見つけまして。しかもその音色がものすごく素敵なんですよ。しかし練習しないと弾けないし、その練習も難しいのです。独学では無理だということで、私が時々こちらに楽師をお呼びして、練習をしていたんです……その……」


 旦那さんも、奥さんも、ものすごく顔が真っ赤だ。最後にはモゴモゴと言いづらそうにしていたが、「最後まで言いなさい!」と、今度は背中をパチンと叩かれている。