そう言ってほほ笑む彼女は、洗練された動きでお茶を飲んだ。良かった。シリルさんがあらかじめ説明してくれたおかげで、話がスムーズに終わりそう。私もホッとしてお茶を飲むと、アビゲイル様がまた私に質問をし始めた。


「それでお聞きしたいのは、今回の噂のきっかけになった出来事なのですが……」
「きっかけになった出来事、ですか?」


 何かあっただろうか? 私が首をかしげ、ここに来てからの事を思い出していると、アビゲイル様は少し頬を赤らめて話を続けた。


「迷い人様がこの世界に現れた時のことです。わたくしは前列にいたのですが、会話の内容を全部は聞き取れなかったので、その……」
「なんでしょう?」
「竜王様と迷い人様が急に理由もなく……口づけをしましたでしょう?」
「えっ!」


 その言葉に私は口をあんぐりと開け、驚きを隠せない。まさかあの時のキスが、治療で無理やりされたとわかっていなかったとは。じゃあ、アビゲイル様のようにまわりで見ていた女性たちの目には、こう映っていたのではないだろうか?