今日彼の社長就任を祝うパーティーがある。
プレスも入る大がかりな就任会見とパーティー。
そして、私との結婚発表。
長かった。
お付き合いをはじめてからもう八年経ってしまった。
初めて会ったとき、そう大学の頃は考えてもいなかった。
無理矢理はなくて、いつも自分で選ばせてくれた。
最後には、私が自分で、私自身を彼に与えると決めた。
出会いは春だった。
今日から三年生。
キャンパスも都心部に変わった。
実家は埼玉だけど、都内は遠い。都内で就職したお姉ちゃんのマンションが大学から近かった。
同居しようと話していたら、なんとお姉ちゃんが二年研修で仙台に異動へなったので、結局1人で住むことになってしまったのだ。今日から学校。2限からだ。行かなくちゃ。
扉を開けてビックリした!
「いってぇー」
ひゃー、開けたドアの前でしゃがむ男の人がいる。
「すみません、大丈夫ですか?」
振り向き立ち上がって、頭の左側押さえながら、こちらを振り返る。
「いや、こっちも携帯見て立ち止まったから、しょうがない、とりあえず大丈夫だから。」
「怪我なくて、良かったです。」
お互いぎこちなく笑い、2人して、廊下を歩き出す。
来たエレベーターへ一緒に乗りこんだ。
静寂に耐えきれず、階数ボタンをジッと見てる。
「初めて会ったけど、この階に住んでた?俺、会ったことないよね?」
「そうですね。私は最近越して来ました。」
「そう。まあ、これからもよろしく。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
何故か、また同じ方向へ歩き出す。
角を曲がり、ずっと歩くと左へ曲がる。ん?
もしや。そして、そのコンビニを右に。
前を行く彼が振り向いた。
「あのさ。もしかして大学生?」
「そうです。あなたも?」
とりあえず、朝から接点が出来たみたい。
「俺、経済学部の三橋といいます。四年生。」
「私は、文学部の平野です、三年です。」
なんと、先輩だったのか。
「文学部ということは、今年からこのキャンパスか。だから会わなかったんだな。」
「そうなんです。来たばっかりです。」
よく見ると、リュックだし、スニーカーだし、大学生だよね。
でも、ジャケット羽織って、細身の紺のパンツでくだけすぎずいい感じ。社会人にも見えた。
「二限だろ?」
「そうです。」
「じゃ、ここまでだな。おれは八号館。君、きっと三号館だろ。」
すごい、さすが四年生。学部棟も把握してるのか。
「またな、平野サン。」
三橋さんはニヤッと笑うと、くるりと背中を向け左側へ歩き出した。
うーん、カッコいいな。
なんか、前のキャンパスにはあんな大人っぽい人いなかったから、ちょっとこっち来て期待しちゃう。
さすが都心部。ふふふ。
教室入ると、友達がすでに座って手を振っていた。
「奈由、遅かったね。」
「迷った?」
親友の詩乃と晴人がこちらを見て言った。
「うん、ドアにぶつかった人と話してたら、ちょっと遅れたー」
ふたりは顔を見合わせ吹き出した。
「何言ってんの、相変わらず天然、奈由」
むむっ。そんなことないもん。晴人はすぐにばかにする。
「ほら、また膨れっ面して、面白すぎ!」
授業の鐘が鳴り、席についた。
放課後。
詩乃のバイトは、彼氏も働いているイタリアン系のファミレスになったらしい。
彼氏はこっちのキャンパスにいるから、バイト先も紹介してもらったみたい。
いいなー。遠距離でも続いていた彼氏は高校のバスケ部の先輩。
大学も同じ所に入るとか、どこまでラブラブなんだよ。
しかも、晴人までバイト決めてきたらしい。
晴人は、教師志望なので塾講師だって。
「奈由はどうすんのー?」
詩乃がこちらを向いた。
「うーん。バイトしないとまずいしなあ。でも塾はパス。私には無理。」
晴人がうんうんとうなずいてる。ひどくない?
「奈由は、ちょっと子供みたいだから、生徒になめられると思うから絶対無理。」
「高校時代にマックでバイトしたことあるから、飲食店ならいけるかも。」
詩乃が猫目を瞬かせながら、頭をなでてくれる。
「うちのバイト先、まだ募集中だから面接受けてみる?」
やったー!彼氏見てみたかった。
「奈由、ヒデと会うために連れて行くんじゃないからね。分かった?」
しゅーん。どうして考えてることばれてるんだろう。
詩乃と晴人もこっちを見て笑っている。
「分かってます、働くため面接に行くんですからね。」
ガッツポーズして決めてみたけど、ふたりは相変わらず笑っている。
校門でバイトに行く晴人と別れて、今日は詩乃に付いていく。
とりあえず、ファミレスに客で入って、様子を見る。
問題なければ、店長に聞いてもらおうという作戦。
「詩乃、バイト先どう?彼氏がいるから楽しい?」
詩乃は呆れた顔をして、私を見る。
「先週から入ってるけど、結構忙しいよ。バイト募集してるくらいだからさ。ヒデとはシフトかぶらないこともあるし。でも、男の子は割といい人いるよ。」
ほー、そうなんだ。都会っぽい朝の人みたいな?
ファミレスに着くと、従業員入り口へ行く詩乃とは分かれて、店の入り口から入る。
夕方のせいか、お客さんはまばら。
大学生もちらほらいる。
働いてる人は、ホールに今は4人くらい。
ここの制服可愛いな。色やデザインも好き。
あ、詩乃が出て来た。隣に立つ男の子と話して、こちらを見る。
あ、男の子がこっちに来た。
「いらっしゃいませ。奈由さん。僕、ヒデです。初めまして。何にしますか?」
茶髪のヒデ君は背が高い。さすが元バスケ部。180センチくらいありそう。
「あ、初めまして。詩乃の友達の平野奈由です。えーっと注文は紅茶とプリンで」
美味しくいただいてたら、詩乃に呼び出され、バックオフィスへ連れてこられた。
「今日、店長いないんだけど。その代わりチーフやってる人がいるから、話聞いてくれるってさ」
失礼しますと言って入ると、どーぞって声がする。
ん?聞いたような。
「三橋さん、連れて来ましたー、友人の平野です」
え?お互い顔を見てビックリ‼️
朝のイケメンお兄さん。
「君、朝の……えーと平野サン」
詩乃が私の顔と三橋さんの顔を見比べて
「え?知り合いですか?」
「そう、今朝初めて会った人。ドアにぶつかった」
三橋さんは、ジャケットの代わりにここの制服を来ていた。でも、カッコいい。笑うとえくぼが左側にできる。