「好きです。付き合ってください!」

初めての告白、いつだったっけ。

相手はどんな人だっけ。

「ごめん。まじお前だけは無理だわ。」

そんな一言が頭からこびりついて離れない。

私の初恋は歪んでた。ショックで頭が真っ白になった。

「そん…な。」

ショックで崩れ落ちそうになりながら何とかその一言を漏らした。

遠く遠く、初恋の人が消えていく。

「ねぇ、あいつ告ったらしいよ。」

「えぇ?絶対無理だろあんな根暗。」

「惨敗だって。ウケる。」

遠くでそんな声が聞こえた気がした。

私には、私には恋する資格なんてないんだ。

唇をぎゅっと噛み締め、丈の長い制服のスカートのはしを涙を抑えるために握りしめた。

悔しい。悔しい。悔しい。

そんな思いが頭を埋めつくした_

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チリリリリリ 、チリリリ

けたたましく鳴り響く目覚ましでようやく私ー七海 莉緒(ななみりお)ーは目を覚ました。

夢だった。悪夢だ。

私の苦い初恋の思い出。
あの日を境に私は絶対に恋愛をしないと決めた。

「恋愛」なんて限られた人にしかする資格なんてないんだ。

私はそう思いながら目覚まし時計をとめ、洗面台に向かった。

ボサボサの髪、ぼんやりした目、小さい口…

アンバランスな顔が私の前に現れた。
そう、これが私の顔だ。

はあ、とため息をつきながら顔を洗い、丁寧に髪の毛をとかす。

その後ヘアアイロンを前髪に通し、くるんと綺麗に巻き、後ろ髪をひとつに結んだ。

そしてコンタクトを付け、うっすらとスクールメイクをする。

こうすると少しは昔よりも綺麗に見えるから不思議だ。

でも蓋を外すと結局昔と全く変わらない。

私は、初恋の人から振られたあの日から、少し努力した。

自分を変える努力を。

見た目が変わって友達からは驚かれたし綺麗と言われた。

…でも、結局生まれ持った性格までは変わらない。というか変えられない。

頑張って見た目を綺麗にしても根暗なこの性格を変えられないから私の生活は大きく変わることは無かった。

それどころか、告白をしたことにより初恋の人がちらちらこちらを見てきて、友達とひそひそ話すようになった。

「あいつぜってー俺を振り向かすためにあんな格好してんだよ。俺は見た目よりあいつの性格がむりっつってんのに。」

確かそんなことを言いながら。

でも今日は高校の入学式。

少しでも、少しでも前の地獄のような生活から抜け出したい。

ちょっとでもいいから自分を変えたい。

私はそっと深呼吸して目を閉じる。

そして目を開けて前を向くとさっきとは少し変わった自分がいた。

今度こそ頑張る。

顔をパチンと叩いて喝を入れて私はリビングに向かった。

「あら、りお。起きてたの。おはよう。今日も母さん遅くなるから帰って夜ご飯食べといて!あと、入学式がんばってね。あ、朝食そこにあるからー。」

「ん、わかった。行ってらっしゃい。」

リビングに入るとパタパタと騒がしいお母さんが家を出るところだった。

灰色のスーツに身を包み私が朝食を食べるためにテーブルに座ると同時に「いってきまーす。」という声が聞こえる。

うちは母子家庭で、数年前にお父さんを事故で亡くし、この数年間女手1つでお母さんが育ててくれた。

お母さんは本当にすごいと思う。

お母さんは東京のエリート大学を出ていて、今は大手企業に就職している。

会社での業績もよく、上司からも認められていて、それでいてコミュニケーション能力が高いせいか会社での友達も沢山いる。

もちろんすごくモテてもいる。

それでも再婚しないのは私のためだ。

私は昔から人見知りで、お母さんの友達や会社の人が家に来た時は部屋に閉じこもって出て来れなくなる。

挨拶も小さい声でしか出来ず、毎回大人を困らせてしまう。

そこで、もし再婚した場合、慣れるまで私が部屋から出てこなくなってしまうかもしれない…と考えたからなのかお母さんは「今は恋愛する気ない!」と言い張っているのだ。

私ももう高校生。

「お母さんが本当に好きな相手なら私も大丈夫だと思うし、安心して恋愛しなよ。」

と言ってもお母さんは笑って「私がそうしたいだけよ。」と言ってくれる。

私はそんなお母さんが大好きだ。

でも何故そんな明るいお母さんから生まれたのに私はこんなに暗くなってしまったのだろうか。

そんなことを考えてご飯を食べる手を止めたが、ふるふると頭を振ってその考えをかき消した。

私は変えるんだ。自分を。今日から。

頭の中でそう決意を決めて、ちいさくガッツポーズした。

朝食を食べ終えて、カバンを持ち、誰もいない部屋に向かって「行ってきます。」とぼそっと呟き外に出た。

新しい通学路。

新しい人たち。

なんだか胸がそわそわとざわめき出した感じがした。