「失礼します。」

形式だけの挨拶をして入ったカウンセリングルームは、今日も小綺麗に片付いていて、気が滅入っている俺にも安心感を与える。

俺は、今日は頭にキャップをかぶっていた。

こんな惨めで歪んだ顔、亜犁安さんには見せられない。

彼女から促されて、俺はいつもの椅子に腰掛けた。

「…………。」

「…………。」

沈黙が続く。

最近のカウンセリングは、いつもこんな感じだった。

両者、言葉を発することもなく、10分間が過ぎた。

「……今日も、以前みたいに『1週間何してたの?』って、聞かないんですか。」

ぶっきらぼうだったけど、亜犁安さんの声を聞きたい気持ちもあって、俺は尋ねた。

「悠輝くんの話したいことを、話してくれれば良いのよ。」

キャップをかぶっている上に、下を向いている俺には、亜犁安さんの表情は分からない。

でも、今日もいつものように、悲しい顔を見せるでもなく、少し微笑んでいるのだろう。

……くそっ!

「なんで、先生はそうなんですか。」

「……え?」