トイレを済ました。

洗面所で手を洗って、廊下に出た所で声をかけられた。

まだ1階にいたようだ。

『兄さんとはまだ付き合ってるんだね。』

『…あたり前じゃん。なに…言ってんの?』

『どうして?いつも言ってるのに。僕と付き合おうよって。』

『それは…。』

ツクシくんの冷たい声が、あたしの体を凍らせる。

早くヨウの部屋に戻らないと。

ツクシくんを避けて廊下を進もうとしたけど、壁に足を上げて塞がれた。

『…通してよ。』

そう言ってもツクシくんは退いてくれない。

退いてくれるわけがない。

『別に兄さんと付き合ってもいい。こっそり僕ともつき合ってくれたらいいんだって。まぁ、最終的には僕のことを選んで欲しいけど。』

『最終的も何もない。あたしはヨウの彼女なわけだし…。』

『じゃあさ…。』

ツクシくんは視線をそらして、少しうつむいた。

そしてすぐに顔を上げて言った。

苦しそうな表情をあたしに向ける。

『なんで…。なんでのんきにウチへ来るんだよ?外でデートしてよ?なんで…!』

『…。』

『なんで…。僕を振ってくれないんだよ?嫌いだって。しつこい。いい加減にしろって。一言そうやって言ってよ?どうして言ってくれないの?言えないの?』

『それは…。』

先程と違って、ツクシくんの声音は徐々に冷たさを失っている。

あたしは床の木目を見た。

目なんか合わせられない。

何も言えない。

言い訳すらできない。

『兄さんとは離れられないって?恋人だから捨てられないって?』

『言え…る…わけないよ…。部屋…。部屋に戻らないと…。』

あたしは無理やり、ツクシくんを押し退けた。

階段に足をかけた。

それでも止まらない。

縋るように…。

あたしに言葉をぶつける。

『それなら…。今すぐ僕を振ってくれよ?ちゃんと振られるまでは…。嫌いだって言われるまでは諦めないから…!』

『…。』

無言でその場から去った。

他にできることなんて、なかった。