『ただいま。』

『お邪魔しまーす。』

あたし達はほぼ同時に、それぞれの適した挨拶をした。

着いたのはヨウの家。

茶色いレンガ風の外装が目立つ、2階建ての一軒家だ。

ヨウの部屋は2階にある。

もう何度も遊びに行っているから、どこの部屋に何があるか大体は把握している。

あたし達は靴を脱いで、玄関を通過した。

玄関のすぐ側にある階段を上ろうとした時、キッチンから人の気配がした。

家の構造的に、階段を登る時はキッチンの入り口の前を通る必要がある。

あたしが反応するよりも先に、ヨウが声をかけた。

『ツクシ、帰ってたのか。』

『あ、兄さん。おかえり。』

『母さんは?』 

『まだいないみたい。』

この子は…。

ヨウの弟、ツクシくん。

あたし達より1歳年下の、高校1年生だ。

同じ学校に通っている後輩。

ツクシくんは冷蔵庫の中から何かを探していたようだ。

『…ミツバ先輩もこんにちは。』

『…こんにちは。』

何も考えず、反射的に挨拶を返した。

目は合わせない。

『なんだ?ツクシもミツバもよそよそしいな。中学生の時は普通にミツバちゃんって呼んでたのにな。』

ヨウが不思議そうな様子であたしとツクシくんの顔を交互に見た。

申し訳ないけど、今だけはヨウの言葉に対してまともに返すつもりはない。

『そうだね。…部屋行こうよ?』

『あ、ジュース持ってくから。行ってて。』

『…うん。』

軽く返事だけして、先にキッチンを出た。

階段を駆け上り、ヨウの部屋に向かった。

部屋のドアを開けて、中に入った。

すぐにドアは閉めた。

部屋の中に広がる何とも言えない男の子特有の匂いが、鼻をくすぐる。

『ふぅぅ…。』

息を吐いた。

身体中の酸素を吐き切るほどの勢いで。

そして息を思いっきり吸った。

『すぅぅ。…けほっ。こほっ。』

少しだけむせてしまった。