お姫様抱っこで体育館に運ばれた後、始業式とその日の授業が終わり、私は寮のダイニングテーブルに拓人と向かい合わせに座っていた。
そして、ぽつりぽつりと、過去を語り始めた。
「私の初恋は、中二のとき。
最初は、部活が一緒だから挨拶をする程度の仲だった。
ねも、同じクラスになり喋るようになってから、私は彼にどんどん惹かれていった。
自分のペースに引き込んでくるその話術が、楽しかった。
感情を顔に出しながら話を聞いてくれる姿が、愛しかった。
口を大きく開けて笑う仕草が、どうしようもなく好きだった。
でも、彼の思いは私と同じではなくて。
それが、その時は辛くて、それだけで心が傷んで。
私以外の人にその話術を披露しているのを見て、羨ましかった。
私以外の人に、私に対するもの以上のリアクションをしていて、悔しかった。
私以外の人に笑顔を見せているのが、辛くて、辛くて、毎日のように泣いていた。
苦しかった。愛されていないのにこんなに心が動いているのが。
私は、無理矢理でも私を見てほしくて、遊園地や、水族館や、アスレチックに誘った。
次第に、彼は目に見えて私を邪険に扱うようになった。
アトラクションは、自分が乗りたいものだけ。
自分が乗りたくないものに乗ったら、他のがよかったと不満を垂れ流し続ける。
水族館では、私を置いて、どこかへ行ってしまった。連絡もつかず、途方に暮れていたら、彼が水族館内のレストランでオムライスを食べているところに遭遇した。しかも食べ終わるところだった。
私は一緒に食べたかった。
アスレチックには、来ると言っておいて来なかった。連絡もなしに。
私は、ようやく振り向いてはもらえないことに気づき、自分を責めた。
なぜうまくできなかったのだ。
なぜ楽しく話すことすらできなくなってしまったのだ。
なぜ、独りよがりになってこんな結末を招いてしまったのだ、と。
これが、私の初恋。
楽しかったはずが、いつの間にか最低で、最悪になってて、それでも忘れられない私の初恋。」
拓人は、何も言わない。
私も彼も俯き、気まずい時間が流れた。
息を吸う音が聞こえたと思ったら、拓人が口を開いて喋りだした。
「今の話だと、大雑把な流れしかわからないので、詳しいことは僕にはわかりません。…ですが、僕も五ヶ月近く葵さんと一緒に過ごしてきた身です。言えることがあります。」
そう言うと、また拓人は息を吸った。
「葵さんは、そんな無造作に扱われるべき人ではない。」
私は、初恋を忘れると言っておきながら、少しも忘れることができなかった。
それは、顔だけ似ている拓人のせいだと思っていた。
「葵さんは面白いです。ついつい僕もからかってしまいます。不快な思いをされていたら謝ります。ごめんなさい。」
中身は真逆だから、一層初恋が輝いて見えて、忘れられないのだと思っていた。
「それに、葵さんはかわいいです。特に、素直になれていないのが相手にばれてしまっているところに愛しさを感じます。」
最低で最悪だったとしても、初恋の人がまだ好きだから、拓人の仕草に胸が高鳴るのだと思っていた。
「僕は、葵さんが好きですよ。僕なんかの言葉では何の感慨も生まれないとは思いますが、きっとこう思う人は僕以外にも腐るほどいますよ。」
拓人が優しくても、初恋のわだかまりは少しも溶けていないのだと思っていた。
「だって、葵さんは、とても素敵な女性なんですから。」
必死でこらえていた涙が目から溢れ出て、私は声をあげて泣いた。
そうだ。そうだったんだ。
初恋を忘れてはいなくても、私はしっかりと次の恋へと進むことができていたんだ。
私は、拓人を、好きになれていたんだ。
拓人が、「思う存分泣いてください。」と頭を撫でてくる。
「私が拓人のこと好きじゃなかったら、セクハラだかんな。」
いい年して大泣きしてるのも、頭を撫でられているのも恥ずかしくて、私は拓人に毒舌を繰り出す。
「社会に出る前にセクハラの経験を積んでしまいました。どうしましょう。僕はセクハラをするためにこの学校に来たわけではないのですが。」
拓人の言葉に、思わず笑みが漏れる。
何も考えていないんだろうが、人が真剣なときにズレた考えを持ち込んでくるところが好きだ。
「うるせえ…。私は拓人が好きだからいいんだよ!もっと撫でてろ!」
そう叫び、拓人の手を掴むために手をのばす。
しかし、
「おっと、そろそろ警報が鳴ってしまうかもしれないので、離れておきますね。」
と拓人が手を放したため、私の手は空振りをした。
こういうところは嫌いだ。
でも、私が今拓人のことが好きなのは間違いないから。
「私は拓人のこと好きだから。拓人はどうなんだよ。」
と、そっぽを向きながら質問する。
「?僕は葵さんと接して女性について学べました。色々なことを教えてくれた葵さんのことは、もちろん好きですよ?」
ここで少女漫画あるあるが出た気がするぞ…?
「それは…友達?的な?」
「いえ、パートナーとしてですが…。葵さんは違いましたか?」
パートナー…そう。パートナーで間違いはない。だがしかし、そこに恋愛的な意味が含まれていない気がするのは私の気のせいか…?
「つまり、恋愛?」
「いやいやいやいやいやいや、僕には恋愛なんてまだまだ早すぎます!葵さんともやっとまともに話せるようになってきたくらいなのに!」
全力で否定された。
やっぱりか。
少女漫画あるある、恋愛以外の意味で「好き」って言うやつ。
「私は恋愛的な意味で言ったんです!それとも、私と付き合ってはくれないんですか!?」
こうならヤケクソだ。もう叫んじまえ。
「え、えああえああええ!?葵さんが僕を…!?は、はい、もちろん喜んでお受けします!」
キョドりまくりながらの返事も、締まらないが、拓人らしくて今はいいと思える。
「ねえ、拓人。」
「はい。」
「やっぱデステニーって本物で、私らって運命の人だったんかな?」
「運命…が何を基準にしているかはわかりかねますが…、」
おいコラ。
そこは素直に頷いときゃいんだよ…!
そういう真面目な返事求めてないんだよ…!
「僕は葵さんが好きですし、葵さんは僕が好きなんですよね?なら、運命でなくとも、それだけでよくないですか?」
そんな風に幸せな言葉を、何の気なしに投げかけてくれる。
こんな幸せが、ずっと続けばいい。
「そうだな!」
私は、そう言って、笑った。
そして、ぽつりぽつりと、過去を語り始めた。
「私の初恋は、中二のとき。
最初は、部活が一緒だから挨拶をする程度の仲だった。
ねも、同じクラスになり喋るようになってから、私は彼にどんどん惹かれていった。
自分のペースに引き込んでくるその話術が、楽しかった。
感情を顔に出しながら話を聞いてくれる姿が、愛しかった。
口を大きく開けて笑う仕草が、どうしようもなく好きだった。
でも、彼の思いは私と同じではなくて。
それが、その時は辛くて、それだけで心が傷んで。
私以外の人にその話術を披露しているのを見て、羨ましかった。
私以外の人に、私に対するもの以上のリアクションをしていて、悔しかった。
私以外の人に笑顔を見せているのが、辛くて、辛くて、毎日のように泣いていた。
苦しかった。愛されていないのにこんなに心が動いているのが。
私は、無理矢理でも私を見てほしくて、遊園地や、水族館や、アスレチックに誘った。
次第に、彼は目に見えて私を邪険に扱うようになった。
アトラクションは、自分が乗りたいものだけ。
自分が乗りたくないものに乗ったら、他のがよかったと不満を垂れ流し続ける。
水族館では、私を置いて、どこかへ行ってしまった。連絡もつかず、途方に暮れていたら、彼が水族館内のレストランでオムライスを食べているところに遭遇した。しかも食べ終わるところだった。
私は一緒に食べたかった。
アスレチックには、来ると言っておいて来なかった。連絡もなしに。
私は、ようやく振り向いてはもらえないことに気づき、自分を責めた。
なぜうまくできなかったのだ。
なぜ楽しく話すことすらできなくなってしまったのだ。
なぜ、独りよがりになってこんな結末を招いてしまったのだ、と。
これが、私の初恋。
楽しかったはずが、いつの間にか最低で、最悪になってて、それでも忘れられない私の初恋。」
拓人は、何も言わない。
私も彼も俯き、気まずい時間が流れた。
息を吸う音が聞こえたと思ったら、拓人が口を開いて喋りだした。
「今の話だと、大雑把な流れしかわからないので、詳しいことは僕にはわかりません。…ですが、僕も五ヶ月近く葵さんと一緒に過ごしてきた身です。言えることがあります。」
そう言うと、また拓人は息を吸った。
「葵さんは、そんな無造作に扱われるべき人ではない。」
私は、初恋を忘れると言っておきながら、少しも忘れることができなかった。
それは、顔だけ似ている拓人のせいだと思っていた。
「葵さんは面白いです。ついつい僕もからかってしまいます。不快な思いをされていたら謝ります。ごめんなさい。」
中身は真逆だから、一層初恋が輝いて見えて、忘れられないのだと思っていた。
「それに、葵さんはかわいいです。特に、素直になれていないのが相手にばれてしまっているところに愛しさを感じます。」
最低で最悪だったとしても、初恋の人がまだ好きだから、拓人の仕草に胸が高鳴るのだと思っていた。
「僕は、葵さんが好きですよ。僕なんかの言葉では何の感慨も生まれないとは思いますが、きっとこう思う人は僕以外にも腐るほどいますよ。」
拓人が優しくても、初恋のわだかまりは少しも溶けていないのだと思っていた。
「だって、葵さんは、とても素敵な女性なんですから。」
必死でこらえていた涙が目から溢れ出て、私は声をあげて泣いた。
そうだ。そうだったんだ。
初恋を忘れてはいなくても、私はしっかりと次の恋へと進むことができていたんだ。
私は、拓人を、好きになれていたんだ。
拓人が、「思う存分泣いてください。」と頭を撫でてくる。
「私が拓人のこと好きじゃなかったら、セクハラだかんな。」
いい年して大泣きしてるのも、頭を撫でられているのも恥ずかしくて、私は拓人に毒舌を繰り出す。
「社会に出る前にセクハラの経験を積んでしまいました。どうしましょう。僕はセクハラをするためにこの学校に来たわけではないのですが。」
拓人の言葉に、思わず笑みが漏れる。
何も考えていないんだろうが、人が真剣なときにズレた考えを持ち込んでくるところが好きだ。
「うるせえ…。私は拓人が好きだからいいんだよ!もっと撫でてろ!」
そう叫び、拓人の手を掴むために手をのばす。
しかし、
「おっと、そろそろ警報が鳴ってしまうかもしれないので、離れておきますね。」
と拓人が手を放したため、私の手は空振りをした。
こういうところは嫌いだ。
でも、私が今拓人のことが好きなのは間違いないから。
「私は拓人のこと好きだから。拓人はどうなんだよ。」
と、そっぽを向きながら質問する。
「?僕は葵さんと接して女性について学べました。色々なことを教えてくれた葵さんのことは、もちろん好きですよ?」
ここで少女漫画あるあるが出た気がするぞ…?
「それは…友達?的な?」
「いえ、パートナーとしてですが…。葵さんは違いましたか?」
パートナー…そう。パートナーで間違いはない。だがしかし、そこに恋愛的な意味が含まれていない気がするのは私の気のせいか…?
「つまり、恋愛?」
「いやいやいやいやいやいや、僕には恋愛なんてまだまだ早すぎます!葵さんともやっとまともに話せるようになってきたくらいなのに!」
全力で否定された。
やっぱりか。
少女漫画あるある、恋愛以外の意味で「好き」って言うやつ。
「私は恋愛的な意味で言ったんです!それとも、私と付き合ってはくれないんですか!?」
こうならヤケクソだ。もう叫んじまえ。
「え、えああえああええ!?葵さんが僕を…!?は、はい、もちろん喜んでお受けします!」
キョドりまくりながらの返事も、締まらないが、拓人らしくて今はいいと思える。
「ねえ、拓人。」
「はい。」
「やっぱデステニーって本物で、私らって運命の人だったんかな?」
「運命…が何を基準にしているかはわかりかねますが…、」
おいコラ。
そこは素直に頷いときゃいんだよ…!
そういう真面目な返事求めてないんだよ…!
「僕は葵さんが好きですし、葵さんは僕が好きなんですよね?なら、運命でなくとも、それだけでよくないですか?」
そんな風に幸せな言葉を、何の気なしに投げかけてくれる。
こんな幸せが、ずっと続けばいい。
「そうだな!」
私は、そう言って、笑った。