観覧車にジェットコースター、コーヒーカップからメリーゴーランドまで、様々なアトラクションがひしめき合い、愉快な音楽も聞こえてくる。

私達七海学園高校の生徒240人は、遠足として遊園地、りぼんランドに来ていた。

学園長が自由行動開始の合図をすると、周りのカップル達が一斉に手を繋ぎ始めた。

もちろんこれは互いに愛し合っているから…ではなく、この"デート遠足"の規則なのだ。

ーー一週間前ーー

いつも通りの朝がやってきて、私達は着席しながらHRが始まるのを待っていた。

隣で「あ、あの、葵さん…。購買だけじゃ栄養が偏ると思うので、たまにはサラダでも食べてはどうでしょう…?僕もそれくらいなら作れますし…。」とか聞こえる気がしなくもないが、幻聴だろう。それに、野菜は嫌いだ。

担任がHRを始めた直後、学園長達がドアを開け放って教室に入ってきた。

どうやら新しい行事の伝達らしい。学園長直々に通知とは、ビッグイベントか?

学園長達が、バッ!バッ!と音をたてながらポーズを取る。朝からこのテンションでいられるのは尊敬だが、早く結論に達してほしい。

長めの前置きが終わると、二人は

「デート遠足を行いまーーす♡」

と宣言した。

クラスメイト達が笑う中、私は呆気にとられていた。

デートだと…!?

さらに学園長が驚きの一言を放つ。

「デート中は必ず手をつないでもらいまーーす♡」

終わった…。

騒ぐクラスメイトの中、私は一人どんよりとした空気を纏ってこのHRを終えたのだった。

ーー現在ーー

遠足中は手を繋ぎ続けなければならない。でも、繋ぎたくない…!

そんな私を尻目に、

「じゃあ、行きましょうか!」

そう言って、拓人は私の手を取り歩き出す。

待て待て、心の準備が…!と思ったところで気づいた。

拓人の手がじんわりと湿っている。つまり、手汗をかいている…?

「緊張してんの?」

「え、あ、して、して、ます、ね…。」

「そりゃそうか。まともに女子と接してないのに、いきなり手繋ぎだもんな。別に無理しなくていいよ。」

正直なところ私も手汗をかいてしまいそうだったので、手を放してアトラクションへと向かう。

すると「いえ、繋ぎましょう…!」と言いながら、拓人が手を繋いできた。

「え、なんで?無理しなくていいって…。」

「…無理じゃ、ないですよ。葵さんは金の夫婦の卵になりたいんですよね?じゃあ、僕のことは気にしないで手を繋ぐべきです。それに、僕も女性に慣れたいので、手を繋ぐことは僕らにとってウィン・ウィンになります…!」

こいつ、キョドってるだけじゃなく、優しいやつだったのか。タイプじゃないし、ちょっと勘違いしてるっぽいが。

「いや、私は金の夫婦の卵になるためにここに来たわけじゃねえよ。」

「えっ?」

「じゃあ、遊ぼーぜ!」

拓人の疑問符を無視し、私はメリーゴーランドへと走る。

遊園地といったらメリーゴーランドだろ!

「あ、メリーゴーランドですか?僕好きなんですよね。風が気持ちいいっていうか、童心に帰れるっていうか…。」

「あ…っそ。」

拓人の顔が、やっぱり初恋の人に見えてしまって、私は素っ気無い返事を返す。
彼は、ジェットコースターが好きだった。やっぱり拓人とは真逆だ。

メリーゴーランドの馬に跨ると、間もなくアトラクションがスタートした。

拓人は、さっき言っていた通り気持ちよさそうに目を細めている。

そうだな。気持ちいい。

メリーゴーランドに乗っている間中、早くジェットコースターに乗りたいと喚かれるよりずっと。

メリーゴーランドが止まり、馬から降りて、次にどのアトラクションに乗りたいか相談する。

「でも、僕…あ、何でもないです…。」

「あ?何、言えよ。」

言いかけてやめた拓人の言葉が気になり、続きを促す。

「え、えぇっと…僕、メリーゴーランドと観覧車以外苦手で…。」

「ふぅん。じゃあ観覧車乗りまくろ。」

何でもないことのように返した私の言葉に、拓人がいいんですか!?と顔を輝かせているが、実は私も同じなのだ。メリーゴーランドと観覧車以外乗れないのだ。

拓人が実は絶叫系大好きとかじゃなくてよかった…。

観覧車につき、ゴンドラに乗ろうと足をかける。乗るときに少し揺れるのは苦手だが、それ以外は大して怖くない。比較的安全なアトラクションだと思う。

拓人と向かい合わせに座る。

というか、これ、気まずいな…。
男女で観覧車乗ったこととかないんだけど…。誰にも見られないので、手を放していられるのがせめてもの救いだ。この状況で繋いでいたらと思うとちょっとゾッとする。

「…葵さんは、なんでこの高校に来たんですか?」

うーん、気まずい…。
それに触れると、拓人に顔が似てることも話さなきゃいけない気がするからな…。

ここは適当に誤魔化すか。

「んー、今まで付き合ったりしたことなかったから、運命の人ってどんな感じかなーって気になって来たわ。」

途中で、自分でもでっち上げるの下手だなと思い、ちょっと笑ってしまった。

「そ、そんな理由が…!?僕なんかが運命の人ですいません!」

驚きすぎだろ。あと、その高速平謝りは既視感あるな。

「ううん、別に偉そうなやつとかよりよっぽどいいよ。無理に得点稼ごうと必死になるようなやつだったら、ここに来たこと後悔してたと思うし。」

そう言うと、拓人は目を瞬き、「ありがとうございます…!」と溢したのだった。