「またあとで来るよ」

 耳元で囁くようにそう言って、頭をポンポンと撫でた。

「薬、忘れんなよ」

 彼はサイドテーブルの上に載っている薬を指差して言った。

「はい…」

 熱が上がってしまうよ…。既に火照っている自分の両頬を両手で包んだ。

 ドキドキしながらお粥を食べて、薬を飲んでからすぐに横になったが、なかなか寝付けなかった。


 いつの間にか意識が闇の底に沈む。

 嫌な夢を見た。私はウェイトレスになって真崎さんのカフェの手伝いをしている。その日は客入りが多く、私は焦ってやたら注文を取り間違えたり皿を割ったりしてミスを連発し、その度に彼に怒られるのだ。

そして最後は何もないところでつまずいて運んでいたナポリタンを床にぶちまけてしまい、客がたくさんいる前で彼に怒鳴られてしまう。

『おい、いい加減にしろよ!もう手伝わなくていい。迷惑だ』

 あまりの剣幕に気圧されて私は泣きながら部屋に戻る。

なんでこんなにミスばっかり…。

彼の役にも立てず、自分の部屋にこもり惨めな気持ちで膝を抱えて泣いた。


 そこで目が覚めた。

ぼーっとする意識の中で薄っすら目を開くと、部屋はぼんやりと常夜灯がついていて、横には椅子に腰掛ける真崎さんがいた。手には濡れタオルを持っている。サングラスは外しているが、まだエプロン姿なので仕事が終わったばかりなのだろう。

「真崎さん…」

「起きたか。なんかすごくうなされてたぞ。怖い夢でも見たか?」

「真崎さんに怒られる夢…」

 さっきまで見ていた夢を思い出して泣けてきた。夢を見たあとは感情的になってしまうのはなぜだろう…。

「俺に?それはよっぽどだな。おいおい泣くほど怖かったのか?」

「真崎さんすごく怖かったし、役に立てない自分が惨めだし…」

「おまえのこと泣かすほど怒ったりしないぞ、俺は」

 涙で濡れた私の顔を、彼は手に持った濡れタオルで優しく拭ってくれた。