その日の夜、自室のベッドでゴロゴロしながら本を読んでいたらいつの間にか寝落ちしてしまい、朝方凍えるような寒さで目が覚めた。ノースリーブにショートパンツで寝てしまったのだからそれはそうだ。

案の定体調を崩してしまった。最初は喉の痛みだけで、どうせただの風邪だしすぐ治るだろうと思っていたら、2日後には40度近い高熱が出たので会社を休まざるをえなくなった。

彼に「あとで相手してやる」と言われたときは少々苛ついてしまったが、今となっては惜しいことをしたと後悔している。今日は病院に行って風邪薬を処方してもらい、今は自室のベッドで寝ている。

外は夕刻の時間をとうに過ぎ、暗くなり始めていた。

 コンコンコン、と部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

「お粥作ったけど、食べれるか?」

 ドアが開くと真崎さんがヒョコッと顔を覗かせた。まだカフェの営業時間だから、合間を縫って作ってくれたのだろう。

「ありがとうございます」

 私はのそのそと重たい身体を起こした。

「自分で食える?」

「あーんしてほしい」

「あーんだと?甘えん坊だな。仕方ねえやつだ」

 彼は「やれやれ」といったふうに眉尻を下げた。そしてベッドの端に座り、自分の膝の上に載せたお盆のお粥をレンゲでひとさじすくってフーフーとそれを冷ます。

「はい、あーん」

 口に運ばれたお粥をパクリと食べる。

「うまいか?」

「うーん、味がしません…」

「風邪引いてるからしょうがないな」

 そのあとも何口か食べさせてもらった。

「もうひとりで食べられます」

仕事があるのに引き留めては悪い。

「そうか。食べ終わったらサイドテーブルに置いといてな」

「はい」

 彼はおもむろに私の額に手を当てた。

「まだ熱っぽいな。薬飲んで寝とけよ」

 私は思わず額に当てられたその手を取って両手で握った。

「どした?」

「……」

 寂しいから一緒にいてほしい、

なんて言ったら困るのは分かっている。

彼は仕事中だし、風邪をうつすわけにもいかない。黙って俯いていると、彼はぎゅっと抱き締めてくれた。