不機嫌になった彼の様子に驚き、慌てて弁明した。

「じ、自分で…」

「は?」

「自分でつけました…」

 恥ずかしさで顔が真っ赤になっていることだろう。思わず俯いて顔を隠した。

「バーカ。俺がつけてやるよ」

 彼は笑って、私がつけたキスマークの上に唇を押し当てた。唇を離すと、薄くなりかけていたそれが、自分でつけたときよりも濃い跡になっていた。

「キスマークは、自分じゃつけられないところにつけるべきだろうな」

 彼はニヤリと笑って、私の首筋に何度かついばむようなキスをした。その度に髭が当たってくすぐったくて、痺れるような電気が走る。そして最後に吸い付くようなキスを首元に落とした。

「なんで、自分でキスマークなんかつけたんだ?」

 低い、いい声で私の耳元で囁く。キスとその声だけで私は腰砕けになりそうだ。

「…バカ」

「はぁ?なんで俺がバカなんだよ。おっと」

 私は耐えられず、彼の胸元に自分の額を押し当てるように彼の身体にもたれた。自然と彼の両腕が私の背中に回される。

「あなたは、私がほしいものを簡単にはくれないから」

「何がほしいんだよ」

「真崎さん」

「もう俺はおまえのものだろうが」

 私は彼の胸に頭突きを食らわせた。ドンっと鈍い音がした。

「うっ!何すんだよ」

 彼は胸を押さえながら数歩下がった。

 言わなきゃ分からないって分かってる。でも、言わなくても分かってほしい。わがままでごめんなさい、と心の中でつぶやいた。

「ったく、仕事終わったらまたあとで相手してやっから」

 彼は私の頭に手をポンと置いて私を解放した。そしてテーブルの上に置いた箱を手に取り、階下へ降りて行ってしまった。

 「相手してやる」って何よ? 
 
 なんでいつもそうやって余裕綽々なわけ?

 私はへそを曲げつつも、首元のキスマークを掌で触れながら少しばかり官能的なシチュエーションに心臓の音が騒がしく鳴っている。

気のなさそうな素振りをしていたかと思うと、急に男の顔を見せるのだからたまらない。

好きな人の一挙一動に気を取られ、その度に一喜一憂している自分が嫌になる。