ベッドの中に入るとシーツが新しくなっていて少しひんやりした。

ウトウトしているうちに本当に眠ってしまったようで、気づくと私は彼の腕の中にいた。薄っすら目を開けると、窓の外は既に明るくなっていた。彼は寝息を立てて眠っている。

時計を見ると7時を過ぎていた。いつもなら彼はとっくに起きている時間だ。慌てて彼を起こそうとしたが、その前に気づいた。今日は店の定休日だ。しかも私も今日は仕事がお休みだ。彼はこのことを知っていて、昨夜…?

 彼の寝顔を愛おしい気持ちで見つめながら、なんて幸せな朝なんだろうと思った。

「さっきから忙しないやつだな」

「え?」

 彼は目も開けずに私の身体を抱き直した。

「起きてたの?」

「もう少し、こうしてていいか」

「うん」

 ああ、幸せだ。


 結局起きたのは8時頃だった。ダイニングでのんびりと朝食を摂る。私はツナサラダを作ってトーストを焼き、彼はスクランブルエッグと焼きベーコンを作った。

「真崎さんと朝ご飯を一緒に食べるなんて久しぶりですね」

「そうだな。夜以外、なかなかゆっくりできないもんな」

 彼はトーストを大きな口でひとかじりした。

「ところでおまえさぁ、いつまで俺のことを『真崎さん』なんて呼ぶつもりだ?」

「え?」

「いつか美晴も『真崎さん』になるかもしれないだろ」

「え!?」

「あ?」

 それって、つまり…そういうこと!?

 彼は「何がおかしいのか」という顔で眉をひそめて私を見つめていた。またこれだ。彼は私の心が落ち着かなくなるようなことを無意識に言う。

たしかに、彼が私を「美晴」と呼ぶようになって久しいが、私ばかりが変わらず彼のことを「真崎さん」と呼んでいた。