「はい、終わり。着替えどこだ?」

「病人じゃなくたって、手出してこないじゃないですか」

「どうした急に」

「だって、私のこと一度も抱いてくれない」

「何言って…」

「いつもキス止まりだし」

 ああ、惨め。

「一緒に寝たって胸すら触ってこなし」

 次第に視界がぼやけてくる。

「私のこと、本当はそんなに好きじゃないのかなって…」

 せっかく引っ込んだ涙が溢れ出してきそうだ。

「病人のくせに、やっぱり俺を誘ってたな?」

 彼は後ろからきつく私の身体を抱きすくめた。

「ま、真崎さん!?」

「ごめんな。そんなこと言わせて」

 首筋に彼の熱い吐息がかかる。今にも心臓が飛び出しそうなくらいに鼓動が速くなる。

「好きな女の裸を前にして平常心でいられるわけないだろ」

 彼はため息をついてから続けて言った。

「白状するよ。美晴が俺とそういうことしたいってことは、前から薄々分かってた。本当のこと言うと、自信がないんだ。長いこと、そういうこととは縁がなかったから…。美晴には幻滅されたくない。だから、もう少し待っていてくれないか?」

「幻滅なんかしないですよ。真崎さんとだからしたいと思うんです」

「自分のエゴのせいで美晴を傷つけてしまっていたな。本当にすまない。まあ、美晴の体調がよくなったら、な」

「全力で治します」

 彼は「ふっ」と小さく笑って私の首筋にキスを落とした。ゾクゾクと甘い痺れが首筋に伝う。

「あの、好きです」

 溢れてしまう感情をそのまま言葉にしてしまうのは、私のいいところなのか悪いところなのか…。

 彼は軽く咳払いをして、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「ゆっくり休めよ。お湯とタオルは置いていくから、気になるところは自分で拭いて。そんでさっさと服着ろよ。自分でな。俺もう限界」

「わ、はい」

 彼は立ち上がり、私の部屋を出て行った。