僕が夕凪の名前を知ったのは、彼女をよく訪ねてくる男のせいだ。


その男の顔を見る時、一瞬だけむっとしたような顔になる彼女は、怒ったように見えるのに色気を発していた。


「来るならそう言ってよ」

夕凪は気だるそうな低い声で呟いた。


「だって、約束なんてしようものなら君はすぐにいなくなってしまうだろう」


そういえば夕凪がいない中、何度かその男が庭の見える板の間の上をうろうろしているのを見たことがあった。