納骨の日、父の遺骨と位牌、遺影を持って再度三崎家に向かった。
一人で全部を持って行くのは大変だった。しかし、父を実家に連れて帰れると思うと感慨深かった。
駅からはタクシーで三崎家に向かった。
玄関先で雄一伯父さんが待っていてくれた。
「楓さん、お疲れ様。遺骨受け取るよ。」
三崎家の居間には祭壇が用意されていて、遺骨を雄一伯父さんが置いてくれた。
私は袋から遺影と位牌を出して祭壇に置いた。そして手を合わせ、焼香をした。
お爺様と、妙子さんに車椅子を押されたお婆様が出ていらした。
お婆様は遺影を見ると声を上げて泣き出した。
もう20年以上会っていない息子がこんな姿で家に戻ってきたのだから仕方ない。頭では理解はしていても息子の死を現実として感じてしまわれたのだ。
妙子さんが必死にお婆様の背中をさすっている。私はその光景を見て涙があふれた。
母親の愛・・・お婆様が痛々しかった。
お爺様はあえて遺影を見ずに庭の方を見ていた。きっと、涙をこらえている。
30分後、お坊様がいらした。
緋色の法衣をまとった方と、お付きの萌黄色の方の2人だった。
さすがに旧家が頼むお坊様は違う。緋色の法衣を召されているのは相当位の高い方のはずだ。
こういうところでも家柄による格式があると思い知らされた。
四十九日の法要が行われ、お婆様のすすり泣く声が皆の涙を誘った。
法要後、納骨の為にお墓に向う。
墓は三崎家から車で20分位の所にあるらしい。
車椅子の乗る車が2台玄関先に既に用意されており、皆はそれに分乗して墓に向かった。
並木道があり、いたるところに樹木が生い茂っている公園墓地だった。
墓地には古い墓から新しい墓までものすごい数の墓が連立していた。
区画の広さも古いところは新しいところの3倍はあった。その古い区画の中でもさらに大きいのが三崎家の墓で、異彩を放っていた。
三崎家の墓はドーム型をしており、遠くから見ても直ぐにわかる立派さだった。
「驚いた・・・」
思わず私はつぶやいてしまった。
すかさず雄一伯父さんが言った。
「楓さん、この墓は君からすると曾祖父さんが建てたんだ。すごいだろ。」
「はい、見たことないです。個人のお墓でこんな立派なのは初めてです。」
「この墓の後ろに鉄の扉があって、そこを開けると中には立ったまま入れる。中には棚があってそこに遺骨が並んでいる。」
「遺骨を納めるところは地面の下ではないのですね。」
「そうなんだ。少し驚くよね。」
「はい・・・」
三崎家の墓には、ドーム型の墓石の他に石灯籠が2基と、同じ石で作られた名刺入れとベンチ、手水鉢があった。
周りは低い鉄柵で囲われており、入口と墓石の前には鉄の扉が付いていて、入口から墓石までは大きな石が埋め込まれ、それ以外は小さな白い小石で埋め尽くされていた。
花立ても石で出来ており、花を入れる部分の直径が一般の花立ての4倍位の大きさで、花もたっぷりないと形にならない。
何もかもが桁違いだった。
既に百合をメインにした白を基調とした花が活けられおり、百合の香りが風に乗ってあたり一面にあふれていた。
お墓の前でお坊様がお経をあげてくださり、お付きのお坊様が骨壺を箱から出して墓の中に入って棚に納めてくださった。
雄一伯父さんに言われて私も墓の中に入った。
棚は3段あり、既に大小15個の骨壺が並んでいたがまだまだ空きがあった。
骨壺の置く場所は内々に決められているようで、父の骨壺は3段目に置かれた。
墓の中は薄暗く冷え冷えしており、塒にしていたイモリが急の光に慌てていた。
納骨が終わり、お坊様も含めて皆で近くの和食店に行った。
食事が運ばれてくる前に私はお坊様にご挨拶をして、その後でお爺様とお婆様にお礼を申し上げた。
「私何も致しませんで申し訳ございません。」
「楓さん、いいのですよ。息子の法要なのですから、出来ることをさせて頂戴。」
お婆様は私の手を握り優しく言った。
「楓さん、我々は雄二を冷たくあしらってしまっていた。だからこのくらいは当たり前のことだ。」
お爺様もお婆様も過去のことを悔やんでいるように思えた。
お二人とも昨日お会いした時よりも一回り小さく見えた。