島の路線バスに乗るために歩いた。
何度も乗り降りできる乗車券があったのでそれを買った。
外を見ながら綺麗な場所で降りた。次のバスの時間を見て、その時間まで正志さんに会えそうな最適な場所を探した。
それを何度も繰り返した。
岬に来た。ここはあまり人が多くなかった。
少し風が出てきてこれから雨になるのかもしれないと思った。長野でもそうだった。昼間晴れていても夕方近くになると風が出てきてその後雨が降る。正志さんと一緒の時はあまり雨が降らなかったと思い返した。いつもきれいな青い空だった。
雨の時だと正志さんには会えないと思った。
予想が当たり、雨が降ってきた。海の塩水が混ざっているような雨で、直ぐに音がするくらいの激しい雨になった。
雨宿りが出来る場所が近くには無く、バス停に屋根があったことを思い出してそこまで走った。
あっという間に道は川の様になり、風もあったので既に全身びしょ濡れだった。
バス停に着いて椅子に座った。バッグから小さなタオルとTシャツを出した。タオルでは役にたたずTシャツで頭を拭き、身体も少し拭いたがそれでもいたるところから雨がしたたり落ちた。
そんな時、バス停の目の前に小さなトラックが止まった。
「あんた大丈夫か? 」
作務衣を着た男の人だった。窓を開け、声をかけてくれた。
「びしょ濡れじゃないか。どこに行く? 」
「・・・」
「そのままじゃ風邪をひく、車乗んな。」
「・・・車濡れちゃいます。」
「何言ってる、早よ!」
男の人は助手席のドアを開けて、私の手を引っ張って車に乗せた。
「とりあえずうちに来て着替えろ。後はそれからだ。」
車が走り出した。ワイパーがフル稼働しても前が見えないくらいだった。
知らない人の車に乗ってしまった。
着いたところは何かの工房だった。
「渚、渚いるか? ちょっと来てくれ。」
「何? 」
若い女の人が出て来た。
「この人風呂入れて着替えさせてくれ。」
「あらら・・・この雨で・・・こっち来て。」
女の人は風呂場に案内してくれた。
「タオルと着替え持ってくるからお風呂入って。」
「ありがとうございます。」
冷え切っていたので、遠慮なくお風呂に入った。徐々に身体が温まっていった。
・・・また人に救われてしまった・・・
お風呂を出るとそこにバスタオルとスエットの上下が置いてあった。彼女の物なのだろう、サイズは丁度良かった。
「お風呂ありがとうございました。温まりました。そして着替えもありがとうございます。」
「災難だったね。で、今日はどこに泊まる予定? 」
答えに困った。
「決めてないなら泊まっていけば。」
「私は渚。この工房に泊まって修行しているの。」
「修行? 」
「そう、ここは陶芸の工房。さっきあなたをここに連れて来た人が先生。」
「若いのに?」
「そう、米山 宗玄。多分まだ30代。ここの工房の先代に教わってみるみるうちに上達して今では名のある先生。」
「へー、すごい。」
「それで私は先生の作品が好きで押しかけて来たってわけ。でもまだ弟子にもしてくれないけど。」
「先生のご家族は? 」
「いない。私がごはんや身の回りの世話をしている。」
「彼女さん? 」
「違う。そういうの一切ない。あの人はそういう人。」
「そう・・・」
「あなた名前は? 旅行者でしょ。何しに大島に来たの? 」
「私は楓。ある人を探してね。」
「ふーん。指輪しているから旦那さん? 」
「そうね。いなくなっちゃったの。」
「この島にいるの? 」
「そんな気がしてる。」
「明日も探す? 」
「そのつもり。」
「じぁあ、楓さん、今日は一緒に飲もうよ。女どおし飲むなんて久しぶりだから。」
渚は夕飯の準備を始めた。私も一緒に台所に立って手伝いをした。
渚は島にいるからかなのか魚もさばくことが出来た。美味しい魚とお酒は最高だった。
はじめは三人で飲んでいたがそのうち宗玄先生はそこで寝てしまった。その後も二人で飲んだ。
渚はおしゃべりだったので、聞いているだけだったが久しぶりに楽しかった。
明日はどうしようかと考えながら渚の部屋で寝かせてもらった。