いつの間にか寝ていたようで、起きたときにはすっかり暗くなっていた。
枕元にはお水のペットボトルとコップが置かれていた。
お水を飲もうと起き上がった時、丁度おばさんが覗きに来た。
「起きたかい? 具合はどう? 」
「ありがとうございます。大丈夫そうです。」
「よかった。お風呂沸いているから入ったらどう? あまり熱くしていないよ。出たら夕食食べて。」
また人のやさしさに触れてしまった。徹もそうだった。何も聞かずに数日泊めてくれた。悲しむ私を抱きしめてくれ、男のこと忘れるには次の男を作ることだよと言って抱いてもくれた。それでも最後までは私の気持ちを考えてしなかった。自分でもなんで徹を拒まなかったのかと思うけどあの時は人肌が恋しく徹の気持ちにしがみつきたかった。
・・・どうしようもない・・・弱い女・・・
・・・本当に好きなのは徹でもない、直哉さんでもない・・・
・・・やっぱり正志さんだけなのに・・・
少し潮の香がするお風呂だった。おばさんは具合が悪い私に合わせてあまり熱くしないでくれていたので湯当たりせずにさっぱりと入ることが出来た。
部屋に戻ると夕食が準備されていた。
「豪華な夕食じゃないけど、地元の魚食べてみて。」
「いただきます。」
自分のお腹が鳴るのを久しぶりに聞いた。
魚はどれもプリプリと新鮮で美味しかった。そして魚のあらで作った味噌汁が絶品だった。
「美味しかったです。久しぶりに美味しいお刺身とお味噌汁を頂きました。」
「食べられてよかった。死にそうな顔していたから心配してた。」
「ありがとうございます。」
「どこか行くところだったのかい?」
答えに困ったがとっさに嘘をついた。
「スケッチ旅行に来ました。」
「そうかい。いいところはいっぱいあるよ。」
「はい。明日散策します。」
「じゃあゆっくり休んで。」
「おやすみなさい。」
おばさんは大きなお盆に器を乗せて戻っていった。
・・・明日は正志さんに会える場所を探さないと・・・
忘れないうちに携帯の電源を切った。これでもう誰からも連絡はこない。
お腹も満たされて睡魔が襲った。
波の音が子守歌になった。
朝、ガタガタという音で起きた。まだ6時だったが宿の人が台所で働いている音だとわかった。
部屋の窓を開けた。すでに暑くなってきているが、海の香りと風が入ってきて気持ちがよかった。
トントン。ノックの音がした。
「おはようございます。朝ごはんの準備をしてもいいですか? 」
おばさんではなく若い男の人が来た。
「はい。お願いします。」
若い男の人は小さな七輪に火をつけてそこに干物を乗せた。
「この魚は?」
「たかべです。塩干になっています。」
「おいしそう・・・」
「はい、うまいですよ。ごゆっくりどうぞ。」
若い男の人はにっこりと笑って部屋を出て行った。
地元の物はやっぱり美味しい・・・朝食をたいらげた。
「お世話になりました。」
「またおいで。季節により美味しいものいっぱいあるからね。」
「はい。ありがとうございます。お世話になりました。」
・・・もう来ることは無い・・・