空を見上げるとキラキラと光る飛行機が飛んでいた。
・・・調布・・・飛行場・・・確か大島とか島に行ける・・・
心が高鳴った。
・・・あの日見た飛行機・・・
・・・正志さんのところに行ける・・・
久しぶりに調布に来た。
町は何も変わっていない、懐かしさだけが心を苦しめた。
私の足は以前住んでいたアパートに向かっていた。
アパートには既に違う人が住んでいることはわかっている。だけどそこに行きたかった。正志さんとのファーストキスも、初めて正志さんに抱かれたのもここだった。
あの時に戻りたかった。
住んでいた部屋のドアをずっと見つめていた。するとドアが開き、若いカップルが肩を寄せ合って出て来た。それを見ると苦しくなり駈け出した。涙があふれていた。
・・・やはり私は正志さんが好き、正志さんだけが好き・・・
・・・正志さんのところにはやく行きたい・・・
バスで調布飛行場に向かった。
入口には大きな石の門柱があり、入ると左手の野球場では子供たちが楽しそうに野球をしていた。まっすぐな道は桜並木で、今は緑が綺麗だった。バスは左折して飛行場の敷地内に入った。
飛行場の建物は意外にも小さかった。カウンターに行き、飛行機の空きを調べた。大島、新島、神津島・・・行先はどこでも良かった。正志に会える場所であればどこでも良かった。
少し待つと大島行に空席があったのでそれを予約した。
「往復でなくていいですか? 」
と聞かれた。
「大丈夫です。」
それだけ伝えた。
時間が出来たので空港の敷地内にあるカフェに行った。
ガラス張りの店内からはヘリの格納庫と、滑走路が見えた。ずっと外を見ていても飽きなかった。店内は若い子供連れが多く、子供たちは楽しそうに飛行機やヘリコプターを見ていた。ママ達はママ友と話に興じていてこちらも楽しそうだった。
数時間後、大島行搭乗のお知らせが掲示板に出たので搭乗口に向かった。
小型の飛行機の乗客は19人と少なく、バスのようだった。私が乗ると満員だった。初めて乗る小型の飛行機は揺れてオイルの臭いがしんどかった。
30分で着いたが、それでも酔ってしまった。どうにか我慢はしたものの、大島の空港で動けなくなり結構な時間じっと座っていた。
・・・今日はもう無理・・・
・・・こんなんじゃ正志さんのところにたどり着けない・・・
やっとのことで近くの案内所に行って泊まるところを探した。
女性一人の客は敬遠されがちだが、船宿のようなところに予約が出来、空港まで迎えに来てくれるというのでお願いした。
「坂口さん? 」
中年のおばさんが軽の車で迎えに来てくれた。
「はい坂口です。よろしくお願いします。」
「具合悪いのかい? 」
「飛行機に酔ってしまって・・・」
「少しすりゃ治るよ。宿はここから5分だ。着いたらゆっくり休むといい。」
「ありがとうございます。」
小柄だけどパワフルなおばさんは私の荷物を持って部屋に案内してくれた。
普通の部屋だがきれいに掃除されていた。おばさんは布団を出して敷いてくれた。
「寝なさい。あとでお水持ってくるから。」
「ありがとうございます。」
布団に横になった。心地よかった。