直哉さんからは携帯に何本も連絡が入っていたが、無視した。


何も考えずに、徹の言うがままに働いた。何かをしていれば忘れている時間が増えるから・・・

店が終わり部屋に戻ってからの夜は辛かった、徹にお酒をもらって飲んで寝た。


ここにきて5日が経ったその日、開店前に男が入ってきた。

「すみません、この辺りでこの女性を見ませんでしたか? 」

直哉さんが徹に携帯の写真を見せていた。私は裏に隠れた。

徹はその気配を感じて直哉さんに答えた。

「この女はあんたの何なの?」

「僕の大切な人です。」

「なんで探しているの? 逃げられたんだ。」

「・・・違います。ちょっと行き違いがあって・・・」

「ふーん。」

「あの、見かけませんでしたかこの人を。携帯の位置情報だとこの辺りにいるはずなんです。」

「それがわかっているのになぜすぐ来てやらなかったのさ。」

「・・・」

「楓、隠れてないで出ておいで。」

徹に促されて直哉さんが見える所までそっと出て行った。

「楓! 探したよ。いきなり出て行ってしまうから。おふくろの言うことなんて聞かなくていいんだよ。」

「直哉さん、私あなたのこと好きかどうかわからないの。正志さんの代わりなのか、直哉さんのことを好きなのか・・・それにお義母様から直哉さんまで奪わないで、って言われたの。直哉さんはあの家でこれから暮らしていくでしょ。もし、お義父様とお義母様とそしてあなたと共に暮らしていければ幸せなのかもしれない。でも、あのお義母様の言葉・・・一度出た言葉は戻らない。もう私では無理なのよ。」

「楓・・・」

「直哉さんには幸せになって欲しい。私では無理よ。お義父様とお義母様にかわいがられるお嫁さんを見つけてください。だから・・・・・・帰って! 」

「楓、僕は楓と暮らしたい。家を捨ててもいい。」

「無理よ。直哉さんにはそれは出来ない。正志さんがいなくなったのだから家を捨てることなんて出来ないわ。わかってよ・・・わかって・・・」

立っていられなかった。徹の足元で泣き崩れた。

「・・・」

直哉さんは立ち尽くしていた。

「楓・・・僕はもう一度おふくろと話す。どうにかする。兄貴との約束もある。楓を守るから・・・だから一緒に戻ってくれ。」

私は首を横に振った。

「帰って・・・」

直哉さんは私の手を取ろうとしたが、徹が先に私を自分の後ろに隠した。

「あんた、帰りなさい。ちゃんと親と話を付けることが出来たらまた来なさい。それまで楓は守るから。」

「あんたは男だろ、楓と一緒になんかいさせられない。」

「何言ってんの、5日も放っておいたくせに。それに私は女は抱かない。でものんびりしていると知らないわよ。とにかく今日は帰りなさい。帰って、話を付けていらっしゃい。」

「楓、僕は絶対来る。待っていてくれ。」

直哉さんはグッと食いしばり、私をにらんで帰っていった。



「楓・・・あれでよかったの? あんたあの直哉っていうのに惚れてんだろ? 」

「好き・・・だと思う・・・だから別れないと・・・」

「全く・・・あんたって女は・・・ああしめっぽい、今日はもう店閉めるよ。家で飲もう。」

徹は店を閉めた。


「楓・・・よかったらみんな話して、貯めこんじゃだめ。」

「徹さん・・・」

徹に正志さんとの出会いから一部始終を話した。徹ははばからずに泣いた。

「幸せからどん底に落ちたってわけだ。そこに直哉が救いの手を出してくれた。そりゃその手を取るよな。でも親に言われたことが辛かった・・・それであんたは自分より直哉やご両親の幸せを選びたいってことか。」

私は目をつむり涙をこらえた。唇が震えていた。

「楓・・・こっちにおいで。」

徹は私の手を引いた。

「泣きたいときは我慢しちゃダメだ。思いっきり泣きな。」

徹は私をしっかりと抱きしめ、頭をなでてくれた。そのやさしさに心が緩んだ。

「あんたはいい女だよ。」

そう言って徹はやさしく私にキスをした。

「徹さん・・・」

「今日は乱れな、乱れてみんな忘れるんだ。目一杯気持ち良くしてあげる・・・」

徹は私を抱いた。
私は拒まなかった。誰かにすがっていたかった・・・


外は土砂降りで、全ての音がかき消された。