居間にある介護用品のレンタル品を引き取ってもらった。そして、介護用品をすべて処分し、居間は昔のようにきれいになった。
この軽井沢のホテルのような素敵な家で正志さんと二人楽しい生活を送っていたのだ。なんだかはるか昔のことのように思えた。
・・・もうここは私の居場所ではない・・・
あれから2週間が経った土曜日、携帯メールが入った。
—会わない?
直哉さんからだった。心臓の音が自分でも聞こえた。私はこの数文字をずっと待っていた・・・
—はい。
それだけを返した。
—家に来る?
直哉さんの家には行ったことが無い。さらに鼓動が激しくなった。その文字を見て固まっているとまた連絡が入った。
—代々木上原の駅改札に1時間後来れる?
—はい。
私は慌てて準備をした。まだ正志さんが亡くなってから間もないのに他の男のところに行こうとしている
・・・私はどうしようもない・・・でも・・・会いたい・・・
・・・やっぱり直哉さんに会いたい・・・
指定の時間前に代々木上原の駅に着いた。
直哉さんはTシャツにジーンズというラフな恰好で駅にいた。
冷静を装い直哉さんの側まで歩いた。直哉さんは私の腰に手を回し何も言わずに歩き始めた。
マンションは駅から3分位だった。
部屋に入ると直哉さんは荒々しくキスをした。
「直哉さん・・・」
「僕は・・・どうすればいい? 楓って呼んでいいの? 目隠ししなくていいのか? 」
「・・・はい。直哉さん、私を抱いて・・・」
私は直哉さんに・・・直哉さんに抱かれた。
「待てなかった。楓さんが俺に連絡してくるまで待とうと思っていた。でも待てなかった。楓さん、僕は楓さんを守るからずっと側に居させてもらえないか。」
「直哉さん・・・本当に私でいいの? 彼女は・・・ 」
「彼女? もうとっくに別れたよ。兄貴が初めに倒れた直後かな。」
「そんなに前? 」
「そう。僕は楓さんを守るって決めたから・・・」
「えっ・・・」
「初めて会ったその日からずっと楓さんのことが気になっていた。つい比べてしまうから他の人とは付き合えなくなった。兄貴が2回目に倒れて僕が介護していた日、兄貴が珍しく目を開けている時間が長い日があったんだ。その時、兄貴に約束した。兄貴に万が一のことがあった時には僕が楓さんを守るから安心しろって。そうしたら兄貴ったら涙流したんだよ。頼んだよって言われた気がした。」
涙が流れた。
「そんなことがあったの・・・私も一度正志が涙を流したのを見たの。その時はあなたが帰った後だった。正志さんがあなたとの関係を知って、私に対して涙を流したのだと思った。だからその後あなたに来ないで、って言ったの・・・」
「もう答えはわからないけど、たぶん兄貴は楓さんにゴメンねと幸せになってと伝えたくて泣いたんだと思うよ。」
直哉さんは私を抱きしめてくれた。