お正月、直哉さんが正志さんの車を運転して3人で実家に行った。

「おめでとう。」

「あーおめでとう。正志良かった。元気そうね。」

「心配かけて悪かった。」

「ホントだよ。びっくりしてこっちが心臓麻痺になっちゃうかと思ったわよ。」

お義母様はいつものように元気に明るく言った。

「楓さんもお疲れ様。ありがとうね。病人抱えていると大変よね。」

「もうずいぶんと回復しましたから大丈夫です。初めはどうなるかと心配でしたが・・・」

「よかったわ。いいお正月が迎えられて・・・」

相変わらずテーブルにはたくさんのお料理とおにぎりが並んでいた。

お義父様も相変わらずだった。静かにニコニコしてお酒を召し上がっている。

平穏な家庭は私の心を温かくしてくれた。



お正月の2日、雪が降った。
昨日の夜、雪のにおいがすると正志さんに言ったらまた面白いことを言っていると笑われた。
でも私は雪が降る前にはいつも雪のにおいを感じる。

雪は降り積もり、あたりの音をかき消していった。
2日は母の命日なのでお墓参りに行こうと思っていたが、見合わせた。

3日の午後には雪は止んだ。外では直哉さんが一人で雪かきをしている。
三崎家には若い男の人がいない。まだ妙子さんは婿を迎えていないのかしら、雄一伯父さんが雪かきをしているのかしらと思いを巡らせた。


あたり一面を銀世界にした雪も4日には車道の雪はなくなっていた。
東京に帰る前に三崎家の墓に寄ってもらった。
お墓には雪がまだ残っていたが、墓石の雪を落としてお参りをした。
そして3人は帰路についた。

帰りの車の中で正志さんが直哉さんに聞いた。

「お前、ずっと東京にいるのか? 」

「考えているよ。いずれは帰るつもりだ。俺は税理士になったけど宅建も持っている。兄貴が帰るより家の仕事にはいいだろ。」

「すまない。」

「なんで謝るんだよ。俺は好きでやっているだけさ。でもな、一つ困っていることは、親と将来同居するつもりだと言うと彼女に逃げられてしまうんだ。地元で見つけないとダメかな。ハハハ。」

直哉さんは正志さんと同じ笑い方をした。

もう直哉さんも30歳、そろそろ結婚をしていい歳だ。
しっかりしている直哉さんがまぶしかった。



暖かくなってきて、正志さんの行動範囲が増えてきた。
家の中では杖もいらなくなり、少し足を引きずる程度で歩けていた。徐々に元の生活に戻りつつあった。

外では私の大好きな沈丁花の香りがしていた。



久しぶりに嬉しい知らせがあった。
妙子さんが結婚したと手紙が来た。でも雄一伯父さんは複雑だった。妙子さんは婿養子を取るのではなく、ニューヨークに行ってしまったのだ。雄一伯父さんの手紙によると、お相手は大学時代の友達で、同窓会で再会し意気投合して付き合い始めていたが、彼が仕事の都合で急遽ニューヨーク勤務になり、伯父さんとは大喧嘩になったが、結婚して行ってしまったというなげきの文面だった。
お互いの気持ちがわかるだけに複雑だった。でも妙子さんが正志さんのことを吹っ切ってくれて安心した。
この先三崎家はどうなるのだろうかと思いを巡らせたが、きっと将来妙子さんがどうにかするだろうと心配するのをやめた。