あっという間にこの日が来た。

11月28日は私の誕生日。
土曜日だけどちょうど開庁日だったので、朝一番で市役所に二人で行き婚姻届けを出した。

その後で軽めにブランチを食べて写真館へ向かった。
写真館のご主人と奥様、そして助手の方も含めてみんなで結婚のお祝いを言ってくれた。
嬉しかった。
婚姻届けを出した時も感無量だったけど、他人にお祝いを言われて改めて結婚したと実感した。


さあ、今日は一大イベント、
お化粧をしてもらいウエディングドレスを着た。
正志さんもタキシードに着替えた。

「楓、綺麗だよ。最高だ。」

「正志さんもカッコイイ。」

「俺ハズいよ。七五三みたいじゃない?」

「そんなことないです。素敵です。」

カメラマンのご主人はこの写真館でも2人の写真を撮ってくれた。


そして約束の3時に向けて40分前に写真館のバンで病院に向かった。
病院の裏では連絡を受けて看護婦さんが待っていてくれた。

「三崎さん、すごく綺麗ですよ。こっちです。」

大きなエレベーターに連れて行ってくれた。
途中で知らない先生がエレベーターに乗ってきてびっくりしていた。
看護婦さんが丁寧に説明してくれて、祝福された。


会議室は椅子とテーブルが既に片付けられていた。
写真館のご主人と助手が急いでバックシートとライトを運び入れて準備をしてくれている。

「3時に先生がお母さんをここに連れてきてくれますよ。私たちも数人来させていただきます。」

いつも母を見てくださっている既婚者の看護婦さんがそのように言ってくれた。

「ありがとうございます。皆さん良くしてくださって・・・」

「三崎さん、泣いちゃだめですよ。折角のお化粧が取れちゃいます。」

看護婦さんはやさしく声をかけてくれた。


準備が整った。
丁度3時にノックの音がしてドアが開いた。

「ほら、お嬢さんだよ。」

先生が優しい声で母に言った。

母は既に泣いている。

「楓・・・ああ・・・綺麗・・・見られると思っていなかったから・・・嬉しい。」

先生は母の車椅子を私の側まで押してきてくれた。

母は私の手を取って泣いた。

「楓、なんて綺麗なの・・・正志さんありがとう。」

3人での写真や、親子の写真、先生と一緒の写真も撮った。
写真館のご主人は笑顔で沢山シャッターを押してくれた。

和やかな時間が流れた。代わる代わる看護婦さんが見に来て祝福をしてくれた。
私は泣かないようにするのがやっとだった。
そして、母の笑顔を焼き付けようと必死だった。


1時間位経った時、先生が母に優しく声をかけた。

「三崎さん、名残惜しいけどそろそろね。」

「楓、正志さん、本当にありがとう。良い最後の思い出になりました。」

母はそう言って頭を下げ、会議室を後にした。

母がいなくなった会議室で私は正志さんの腕の中で泣いた。正志さんはそれをずっと受け止めてくれた。

外はとびきり大きな夕日が輝いていた。



写真館でドレスを脱ぎ、普段に戻った。
正志さんは既に着替えを終わっていて、ご主人となにやら話をしていた。

「お待たせしました。」

「お疲れ様。よかったね、お義母さんとても喜んでいた。」

「正志さんのおかげです。そして、出張撮影をしていただきありがとうございました。」

「いい仕事をさせていただきました。少しでも早く写真を仕上げますね。出来ましたらご連絡いたします。」

ご主人は私たちの無理な要求に対して、すべてをかなえてくれた。感謝しかない。
心からお礼を言って写真館を出た。