相続の件も書類が揃ったので滝先生に全てお渡しした。

数日後、滝先生から連絡があった。

「滝です。お預かりしている書類を確認しております。その中で福岡のアパートなのですが、お父様が所有されており、現地の不動産屋さんが管理されているようです。その不動産屋へまだご連絡されていないですよね。」

「滝先生、忘れていました。どうすればよいですか。」

「不動産屋はわかりましたので、今から言うところに連絡をしてください。そして家賃収入を先ずはお母様のところに振り込むように変更しましょう。それからこの不動産をどうするかお母様とご相談ください。」

自分のことで浮かれていて、すっかり忘れていた。明日にでも母に聞いてみよう。


「お母さん・・・」

「楓・・・このあいだはありがとうね。本当に最高の誕生日だった。看護婦さんにも自慢しちゃったわ。」

「よかった、喜んでもらえて。」

「楓、その指輪見せてちょうだい。」

母は正志さんからもらった婚約指輪を私の手を取って見た。

「素敵なのを頂いたわね。本当に良かった・・・」

また母は泣き出した。

「お母さん・・・私幸せだから・・・安心して・・・」

私も言葉に詰まった。でも今日は聞かなくてはいけないことがあるのだ。涙をこらえた。

「お母さん、聞きたいことがあるの。お父さんが福岡のアパートを所有していたことを知っている? 」

「福岡のアパート? 知らないわ。」

「お母さん知らなかったんだ。お父さんアパート経営していて家賃収入得ていたの。」

「そうだったのね。」

「その収入をまずはお母さんの通帳に入れてもらうように変更したいの。それとそのアパートを今後どうしようか? 」

「楓はどうしたい? 楓の思うようにしなさい。」

「正志さんと相談して決めてもいい? 」

「そうね、そうして頂戴。振込もあなたのところでいいわよ。」

あまり考えていなかった。でも月々決まった額が入って来るのはちょっと嬉しいかもって思ってしまった。
しかし、母はもう先が無いことが分かっていて、なるべく私にと言っている。


・・・寂しい・・・


わざと明るく振舞うしかなかった。


「お母さん、私ね、長野の家は処分してもいいと思っているの。」

「そうね。長野の家はもういらないね。」

淡々と母は言った。もう母の側にいるのが辛くなってきた。少しでも長く一緒に居なくてはと思う反面、・・・辛かった。

「ありがとうお母さん。また来るね。」

私は病室を飛び出した。涙が止まらなかった。


福岡のアパートの件を正志さんに相談した。

「今はこのままでもいいかもね。楓は今パートの仕事も殆ど出来ていないからお小遣いが入るのはいいでしょ。修繕が必要になった時とかに手放せばいいよ。」

正志さんのアドバイス通りに滝先生に伝え、福岡の不動産屋に連絡を済ませた。