チェックアウトをして上田にある実家に向かった。
途中でコンビニに寄って飲み物等を買い、30分位で家に着いた。
家には駐車場があったのでそこに車を駐めた。
数ヶ月間家を空けただけなのに庭の草は伸び、雑然としていた。

玄関の鍵を開けて家に入ったが、空気が淀んでいた。

「雨戸開けようか。」

正志さんはそう言って1階すべての雨戸を開け、網戸にして空気を入れ替えてくれた。
私は2階を同じように開けた。

「さてと、何からしますか? 手伝うから何でも言って。」

「はい。でも少し探さないといけないので、少し休んでいてください。」

「わかった。その前に車に携帯忘れたから取って来るね。」

正志さんは外に出ていった。


まもなくして外から大きな声が聞こえた。

「そこで何してる? お前誰だ。」

その声に慌てて外に飛び出すと、正志さんが男に胸ぐらを掴まれていた。

「ヒロ君?・・・」

「楓・・・来てたのか。こいつ誰だ? 」

「ヒロ君、こちら坂口さん。お付き合いしているの。」

「はっ? お前・・・の・・・彼氏か?・・・親父さん亡くなったばかりなのに・・・ったく。なんでだよ。」

ヒロ君は正志さんから手を離した。

「ヒロ君には関係ない。もう私のことに口出ししないで。」

思わず強い口調でヒロ君に言ってしまった。

「俺はさ、おふくろがお前ん家が開いたから見て来いって言うから来たんだよ。そうかよ、もう知らないよ。なんだよ! 」

ヒロ君は言い捨てて帰っていった。

「ごめんなさい、正志さん。」

「いきなり胸ぐらを掴まれたから驚いた。誰? 」

「高校の同級生。お母さんとおばさんが仲良くて、直ぐ近くに住んでいるから、おばさんも家のこと気遣ってくれていたの。ヒロ君からは高校卒業の時私のこと好きだって告白されたけど私は断った。でもその後も何かにつけて言ってきていた。」

「楓のこと、まだ好きなんだな。」

「でも私は好きとかじゃない、ただの友達。だから・・・ごめんなさい正志さん、イャな思いさせちゃった。」

私は正志さんの腕の中に飛び込んだ。

「楓、大丈夫だよ。」


・・・ほっとする。この暖かさ・・・ずっとこうしていたい・・・


正志さんは私の頭をなでて軽いキスをしてくれた。

「さあ、気を取り直して探し物しないと・・・」


探さなければいけないものリストを出してテーブルに置いた。
母に聞いたところから通帳や印鑑を出した。持って来たカバンにそれらの物を詰めていき、リストの物は全て見つけることが出来た。

「正志さん、もう少し待ってね。母の物と私の物少し持ち出したいから。」

「わかった。ねえ、一つお願いしていい? 」

「なあに? 」

「小さい時のアルバムとかあったら見せて。」

「わかった、恥ずかしいけど持ってくるね。」

2階に行って子供の時のアルバムや学校の卒業アルバムなど5冊を抱えて持ってきた。

「正志さん、これ恥ずかしいけど見てください。」

そう言って正志さんに渡した。正志さんは一人それを見てニヤニヤしていた。

2階で自分の洋服や小物、母の服などを揃えて袋に入れた。手提げ袋2つになった。
自分の部屋を見まわすと、懐かしさもあったが既に私には必要ないと思った。
さっきのヒロ君とのこともあるし、この家は処分していいと思った。


2階の戸締りをして、荷物を持って降りた。

「2階は閉めて来ました。あのね、これ・・・」

箱を正志さんの前に置いた。

「これ・・・父のコレクション。時計好きだったの。イャじゃなければ正志さん貰ってくれないかな。」

正志さんは箱を開けた。

「すごいね、いいものがいくつもある。いいの? 」

「母にもOK貰ったの。好きにしなさいって言われた。」

「ありがとう、大切にするよ。」

「じゃあ、1階も閉めてもうこの家から出ましょう。」

「楓、この家どうするつもり? 」

「さっき考えていたのだけど、私は処分したいかなって。」

「もしそうなら、全部の部屋の写真撮っておいた方が良いよ。家の処分の時に必要となる。撮っておいで2階も。外からは俺が撮るから。」

「ありがとう。そうする。」

二人でいたるところの写真を撮った。

正志さんが思い出したかのように言った。

「この家の権利書と図面何処にあるか知ってる? 」

「権利書は銀行の金庫、図面はこの家の中だと思うけど、詳しい場所をお母さんに聞いていない。」

「探そう。ありそうなところ教えて。」

正志さんは建築事務所に勤務しているからそのあたりのことは詳しかった。図面は評価するときや売買に必要だ。
2階の父の箪笥の上に大きな洋服箱が置いてあった。正志さんがその箱を下ろしてくれた。その中に家の図面と、もうひとつ図面が入っていた。見てみるとアパートの図面だった。場所は福岡だった。

「これは・・・」

「アパート経営していたのかなお父さん。銀行の金庫に権利書あるといいね。」

聞いていない話だった。お母さんも言ってなかった。

戸締りをして家を出た。
結構な荷物になったが、正志の車はランクルだったので余裕で積めた。


上田のホテルの駐車場に着いた。貴重品の入ったかばん以外は車に乗せたままホテルに入った。

この日はコンビニで買ったサンドイッチしかお昼に食べていなかったので、ホテル内のレストランで早い夕飯を食べた。

「疲れたでしょ。」

「正志さんこそ、運転もずっとしていただいて、ヒロ君とのこともすみませんでした。」

「僕は大丈夫だよ。それより、提案があるんだけど・・・」

「はい。」

「もう一泊しない? 軽井沢辺りで。」

「軽井沢ですか、大好きです。私は嬉しいですけど、今からで宿取れますかね。」

「さっきネットでちょっと見たのだけど取れそうだよ。予約していい? 」

「はい。ありがとうございます。」

軽井沢は私の大好きなところで、家族とも何度か行ったが泊まるのは初めてだった。
どこのホテルになるのかワクワクした。
正志さんは廊下に出て連絡をしている。

「楓、予約出来たよ。」

「どこですか? 」

「内緒! 明日のお楽しみね。」

「えー、正志さんいじわるです。教えてくださいよ~」

「ククッ、お楽しみが良くない?」

「もー、じゃあ楽しみにしますね。ワクワクします。」

「嬉しいなー、そんなに喜んでくれて。さてと、少しラウンジでゆっくりしてからその後は今日はゆっくり寝よう。」

「はい。」

少しほっとした。言えないけどさすがに疲れている。正志さんも運転をずっとしていたし疲れているよね。ラウンジで少しお酒を飲んでから部屋に戻った。

ベッドに入ると二人ともあっと言う間に寝た。