10月5日から長野に行く。
1泊目は小諸の温泉、2泊目は実家から車で10分位のところにある上田のホテルを予約した。
当日、正志さんは車でアパートまで迎えに来てくれた。正志さんの車は黒のランクルだった。
「さあ、乗って。」
正志さんの車に乗るのは初めてだった。
助手席に座り、中央高速の調布インターから小淵沢を通って小諸に向かう。
「楓、小淵沢でランチしようね。」
「はい、正志さんはいろいろお店ご存知ですよね。」
「そんなではないよ。そろそろネタが付きそうだ。小淵沢のお店はネットで調べた。だから味はわからないよ。ハハハ。」
「じぁあ楽しみですね。」
「今回の旅行、全てが楽しみだよ。」
「私もです。」
正志さんが探した小淵沢のお店は小さなテーマパークのようなところにあった。
その敷地内には小さな個性的なお店が幾つかあり、見ているだけで楽しかった。
レストランは結構大きく、立派な暖炉があった。そこでスープ、サラダ、ソーセージ、パンなどアラカルトで取ってシェアをして食べた。サラダは特に新鮮でおいしかった。
「美味しいです。シンプルだけどとても美味しい。」
「そうだね。奇をてらっていないのが良いのかな。」
「外のベランダの席も気持ちよさそう。」
「ほんとだ、今度はあっちにしようね。」
いつも正志さんは次のことを言ってくれる。それがとても嬉しかった。
レストランで充分に休憩を取り、小諸に向かった。
小諸は昔城下町でいまでも所々にそれを思わせる建物が残っている。
旅館のチェックイン前に懐古園に行った。
プラプラと懐古園を歩いた。紅葉が始まりかけていた。
「楓の誕生日はいつ? 名前からしてそろそろなんじゃない? 」
「はい、11月28日です。私は東京の文京区で生まれたのですが、家の側に楓の紅葉が有名な六義園があり、丁度その時期だったので楓と名前を付けたらしいです。」
「その時期になったら六義園に行ってみよう。」
「はい、私も行きたいです。小さい時行ったみたいですがほとんど覚えていないので。」
「俺の名前の由来はね、正しい志を持つってそのままなの。わかりやすいでしょ。でも弟が出来たときに直哉と付けた。それで少し意味合いが増えたのね。二人合わせて正直って。」
「なんだかいいですね。正直か・・・お二人ともそういう感じです。」
「そうだね、親からは嘘をつくとこっぴどく怒られた。正直であれってね。」
「いい教えです。ところで正志さんの誕生日は? 」
「僕は9月18日。」
「えー、過ぎちゃいましたよ。なんで教えてくれないのですか。」
「忙しかったから僕も忘れていた・・・」
「もー。」
正志さんは私が怒っているのを見て楽しそうに笑っていた。
「そろそろ旅館に向かおうか。」
旅館は旧館と点在する離れがある老舗旅館で、正志さんは離れを予約していた。
宿の人が荷物を持って離れまで案内してくれた。
この離れには居間とベッドルームと温泉も付いていた。
「夕飯ですが、6時半にお持ちするのでよろしいでしょうか。」
「はい。よろしくお願いします。」
宿の人が部屋を出ていくのを待った。
すぐに辺りが静かになり二人きりになった。
「いいね。」
「はい、素敵です。」
・・・素敵だけどお風呂恥ずかしい・・・
「どうした? 」
「お風呂・・・ちょっと恥ずかしいかなって・・・」
「楓ってホントに可愛いよね。そういうことストレートに言うことが可愛い。」
正志さんは私を引き寄せてキスをした。
「続きは後でね・・・」
いたずらっ子のような顔で正志さんは言った。
私はキスされただけなのに未だに顔を赤くした。その顔を見てまた正志さんは微笑でいる。
「足湯しようか。歩いて疲れたでしょ、着替えてそうしようよ。」
寛げるものに着替え、温泉に足を浸けた。
ジンジンとして気持ちよかった。
正志さんが冷蔵庫から水のペットボトルを1本持ってきてくれたので、それを二人で飲みながら足湯を楽しんだ。
何もかもが新鮮だった。
私にとってはペットボトル1本を二人で飲むのも初めてで、間接キッスだよねって高校生のようなことを思った。
そんな恋をしてこなかったから、今私はうかれている。
夕飯は地元の素材を主に使用した豪華なものだった。二人でビールを少し飲みながらのんびり頂いた。
その夜、二人は一緒に温泉に入り、熱い夜を過ごした。
外では秋虫が鳴いていた。
朝、旅館の人の声で起きた。
「おはようございます。朝食の準備をさせていただきます。」
二人は飛び起きた。正志さんがあわてて旅館の人の対応をしてくれた。
「ごめんなさい。寝坊してしまいました。」
「ほんと焦ったね。ハハハ」
こういうときも正志さんは優しい。さらに正志さんのことを好きになった。