ゆっくりとブランチを食べて、調布に向かった。
調布からは病院行きの専用バスが出ていた。
時間を確認してから駅の近くで正志さんは母へお見舞いの花を買ってくれた。


「ちょっと待っていてください。」

正志さんには病室の外で少し待っていてもらった。

「お母さん・・・」

母はウトウトしていたが、楓の声で目を開けた。

「楓・・・」

「お母さん、今日は紹介したい人を連れて来たよ。」

「えっ、あら大変。楓、ベッド起してくれる? 」

電動のベッドを少し起こして母の楽な体制にした。母は急に元気になったようにシャキッとし、鏡を見て手で髪を整えた。
正志さんを病室に招いた。

「お母さん、こちら坂口 正志さん。」

「坂口 正志です。楓さんとお付き合いさせていただいています。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。」

「こんなところに来ていただいて、すみません。」

「これ、お見舞いです。」

正志さんは母に花を渡した。

「ありがとうございます。綺麗なお花・・・楓、そこの花瓶に活けてきてくれる。」

「はい。」

私は花と花瓶を持って病室を出た。


母は正志さんに言った。

「坂口さん、聞いているとおもいますが楓の父が亡くなり、私もこんなですからずっと楓には苦労ばかり掛けています。ですから、あなたのような方とお付き合いしていると聞いて私嬉しくて。どうか娘をよろしくお願いします。」

「はい。楓さんとは佐原で知り合いました。私の一目ぼれです。まだお付き合いして間もないのですが、楓さんと結婚したいと思っています。お許しいただけますか。」

母は目を潤ませた。

「良かった。私が死んでしまったら楓はどうなるかと心配していました。これで安心ね。ああ、良かった・・・本当にありがとう。」

「お母様、気を強く持たれてお元気になってください。一緒に佐原に行ってお父様のお墓参りをしましょう。」

「ありがとう。ありがとう。」

母は何度も正志さんに言った。

私は病室の外で二人の話をお墓参り・・・のところから聞いていた。正志のやさしさに涙が潤んだ。


深呼吸をしてから病室に入った。

「お母さん、お花綺麗よ。ここなら見える? 」

今の話を聞いていなかったかのようにそう言って、母から見えるところに花瓶を置いた。

「綺麗ね。・・・楓、素敵な方と出会えて良かったわね。ホント良かった。」

母が喜んでいる姿が見られて嬉しかった。でも、同時に母が弱ってきていることを強く感じた。
30分位三人で話をしたが、母が疲れてはいけないので帰ることにした。

「お母さん、また二人で来るからね。」

二人は病院を後にした。


「正志さん、ありがとう。母も喜んでくれました。」

「いいお母さんだ。楓に似ている。」

「そう? 似ている? 」

「顔がと言うことではなく、雰囲気というか性格というか、嘘のない相手のことを考えられる人だと思った。楓も一緒。お母さんに育てられたからだと思うよ。」

「そうかな? 顔はお父さんの方に似ているとよく言われた。でもお母さんと似ていると言われたのは初めて。嬉しい。」

「これからはお母さんに何がしてあげられるか考えよう。」

「ありがとう正志さん。」


調布行のバスに乗った。

「この後どうする? 」

「今日は帰ってもいいですか? 」

「そうだな。じゃあ、また長野の旅行の件は連絡取り合おうね。」

「はい。」

「じゃあね。」

正志さんは駅の方に歩いていった。