次の朝、仕事に行く正志さんはやさしく私に語り掛けた。

「楓、昨日は無理させてごめんね、でも嬉しかったよ。今日はゆっくり休んでね。これから1ヶ月位はゆっくり会えないかもしれないけど、たまに夕飯は食べよう。そして、仕事が落ち着いたらお母さんのところと長野に行こう。約束するよ。」

「ありがとう。正志さん。」

正志さんはやさしいキスをして出掛けて行った。

母のことを考えると辛いが、正志さんとのことで幸せとはこういうことなのかと感じ、この先の希望とやすらぎ、そしてやっと居場所を得たような気がした。


普段より朝日がまぶしく感じた。



結局次に正志さんとゆっくり会えたのは9月末だった。
その間何度か一緒に夕食を食べたが、正志さんはその後すぐに事務所に戻っていった。ゆっくり会えないのがわかったのでなるべく遠慮をして会わなかった。

正志さんは私にとって初めての彼氏・・・。
正志さんはあんなに素敵な人だから過去に恋人はいただろう。それを考えるとどうしようもなく不安になった。

・・・どんな人だったのだろう・・・私とは何が違う・・・
・・・美人だったのかな・・・スタイルが良かったのかな・・・
・・・でも、そんなこといくら考えても辛くなるだけ・・・考えないようにしなくては・・・
・・・今は私が正志の彼女だから・・・


正志さんから電話が来た。

「楓、終わったよ。やっと仕事が僕の手を離れた。」

「良かったですね。お疲れ様でした。先ずはゆっくり休んでください。」

「そうだね、さすがに疲れたよ。でも達成感があるので気分はいいよ。それにやっとゆっくり楓に会える。それを目標に頑張ったんだから・・・」

正志さんはいちいち嬉しいことを言ってくれる。

「楓、3日の休みが貰えたから、良ければ温泉に行ってゆっくりして、その後長野のお家に行くと言うのはどうかな。その計画立てない? 」


・・・旅行だ・・・


少し恥ずかしいけど嬉しかった。

「はい、楽しそうです。」

「明日の夜会おうね。場所は後で連絡する。」

「はい、待っています。」


・・・これでやっとゆっくり会える・・・

恋人としての生活が始まると思うと嬉しかった。


連絡が来た。
—明日のお店は笹塚の○○イタリアン。駅の改札に6時45分で。

相変わらず正志さんの指定する店は素敵だった。

「美味しいですね。」

「楓はいつも美味しそうに食べてくれるから嬉しいよ。旅行のことも決めよう。僕の車で行くことにして、旅館は僕が手配する。実家には泊まる? 」

「近くのホテルに泊まりませんか。」

「わかった。ではそのホテルの手配は頼んでいい? 実家から近いところを選んで。」

「わかりました。」

「楽しみだ。」

「私も楽しみです。」