次の日の昼過ぎ、滝先生から電話が来た。
「滝会計事務所の滝です。この度はご依頼ありがとうございます。」
「滝先生、こちらこそよろしくお願いします。」
「早速なのですが、先日ご説明した書類を集めていただきたいのです。先ずはお父様が生まれてから亡くなるまでの戸籍を揃えなくてはいけません。三崎さんのお父様は生まれが千葉で、お亡くなりになったのが長野ですから、ずっと繋がるように揃えなくてはいけません。その土地の役所に連絡して手配してください。それぞれの役所でやり方が微妙に違いますから役所に行かれる前に必ず連絡をして必要な物を聞かれてからお出かけください。郵送も可能ですからそれも聞いてくださいね。あと、銀行とかも一緒のことです。とにかく手配方法を全て聞いてから一気に手配したほうがいいと思います。不明なことがありましたらいつでもご連絡して下さって結構ですからね。」
「ありがとうございます。やってみます。」
「それとね、書類はポケットファイルに入れておくといいですよ。それを面倒だけどどこに行くときも持っていくといい。封筒に入れておくと探すのが結構大変になるのですよ。これはおすすめです。」
「わかりました。やってみます。」
急に忙しくなった。
相続の為に揃えなければいけない書類のリストを読み返し、順番に関係各所に電話をした。本当に面倒くさかった。
役所関係はホームページからダウンロードした書式に書き込み、郵便局で定額小為替を用意したり、返信用の封筒や切手を用意したりと、こまごまとした作業が必要だった。
銀行も必要書類が多く、とにかく電話をしてメモをした。
メモをしていくと必要書類が複数枚必要になる。その為、取引銀行が複数あると必要枚数も変わる。原紙が必要なところもあればコピーでいいところもある。まったく統一して欲しいものだと思った。
お父さんが使っていた銀行、二行まではわかるけどあとはお母さんに聞かなくては・・・
メモもノートタイプにして保存した。とにかく長野に行くのは1回にしたい。実家や銀行で父の通帳や印鑑、財産にあたるものを探さなければいけなかった。
やっぱり一人では不安だった。
少し遅くなっても正志さんに一緒に行って欲しいと思った。相談してみよう・・・
メモをしておいた不明点を母に聞いた。
「お母さん、お父さんが使っていた銀行全部教えて。 それと通帳と印鑑のある場所も教えて欲しい。あと、株とかやっていたのかな? 悪いけど思い出して。」
「銀行は三行よ。あと郵便局も。それと株はすこしだけある。証券は銀行の金庫。上田の△△銀行。印鑑やカギはお父さんの箪笥の引き出しの奥に隠し引き出しがあるの。その中よ。通帳は居間のサイドボードの鍵がかかっている引き出し。・・・楓、お父さんのだけでなくお母さんのも全て持ってきて、それであなたが持っていなさい。それと、お母さんのバックがそこのロッカーの金庫にあるから持ってきて。そこにポーチが入っているでしょ、その中に鍵とお母さんの印鑑も入っているわ。そのポーチ毎持って行きなさい。」
「わかった。お母さん、ついでに聞いていい? お母さんはどこで生まれたの? 聞いたことなかったから・・・」
「お母さんの生まれは群馬の桐生よ。お父さんとは東京で知り合ったの。それから北海道、広島、神戸、仙台、福岡、長野と転居したのよね。大変だった。あなたも転校が多くて可哀そうなことをしたわ。」
「そうね。友達が出来たかと思うと転校だった。別れるのが辛くてね、その時は連絡するとか言ってくれるけど殆ど連絡来なかったし、転校が多かったのはこのあいだまではイャだった。でもね、ある人が〝いろんなところに行けて良かったじゃない〟って言ってくれたの。その言葉で、そうかも・・・って思えた。」
「楓、その人のこと好きなの? 」
「えっ? 」
「フフッ、あなたの顔を見ていればわかるわよ。今優しい顔になった。」
「うん、好き。」
「お母さんに紹介してよ。」
「今忙しいみたいだから、落ち着いたら連れてくるね。きっと来てくれる。」
「楽しみだわ・・・」
母に正志さんとの出会いやお爺様との接点などを話した。母は嬉しそうにその話を聞いていた。
・・・正志さんの仕事は9月末には落ち着くと言っていたけど・・・あと2ヶ月ちょっと・・・