2日後の昼に正志さんからメッセージが入った。
—楓さん、この間はありがとう。楽しかった。
—弟に連絡を取りました。一度一緒に弟の会計事務所に行きませんか。
—相続について聞いてみよう。絶対そこに頼まなければいけないと言うことではないから、それは安心して。費用も知りたいでしょ。
—正志さん、先日のお礼をしていなくてすみません。
—とても楽しかったです。お料理もおいしかったです。ありがとうございました。
—弟さんにご連絡いただいた件もありがとうございます。是非お願いします。
—私はいつでも大丈夫ですから、お二人のご都合に合わせます。
—わかりました。スケジュールまた連絡します。
正志さんからその夜に電話が来た。
「楓さん、今大丈夫? 」
「正志さん・・・大丈夫です。こんばんは。」
「こんばんは。今何していたの? 」
「ハーブティ飲みながらテレビ見ていました。」
「テレビ大丈夫? 電話していたら見損ねたーってことない? 」
「フフッ、無いです。特に見たくてテレビ付けていたわけではないので・・・」
「それならいいけど。あのね、弟の会計事務所の件だけど、今週の木曜日夜6時にどうかな。事務所の場所は新宿御苑なんだけど。」
「ありがとうございます、大丈夫です。あの、何持って行けばいいですか? 」
「先ずは説明聞こうよ。だからメモ取れるようにしていけばいいんじゃないかな。」
「はい。」
「弟にざっくり相続のこと聞いたのだけど、結構大変だね。書類揃えるのも大変そうだ。」
「ご紹介いただいて良かったです。役所で説明聞こうと思っていたのですが、一人で聞いても不安だったので・・・」
「何事も聞いてからだね。それとその後食事しよう。事務所の近くにきれいではないけど美味しい中華屋があるんだ。」
「はい、楽しみにしています。」
「その日はどこから来る? 」
「家からです。」
「だったら笹塚駅新宿方面ホームの中央位のところに5時半でどう? 」
「はい。」
「じぁあ木曜日ね。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
木曜日が待ち遠しかった。
正志さんとの会話はテンポがいい、だらだらとは話さない。私は昔から電話は簡潔なのが好きだった。
でも、今は正志さんの声をもう少し聞いていたいと思った。
この日も私は遅くとも5分前に約束の場所に行こうと決めた。
調布から笹塚までは急行に乗れば15分あれは着くので、5時過ぎに調布駅に着くように家を出た。
タイミングよく急行が来たので5時20分には笹塚に着いた。
ホームを見渡すと、正志さんはホーム中央で携帯を見ながら立っていた。
「正志さん。」
そっと近づいて声をかけた。
「おっ楓さん、早かったね。」
「正志さんこそ。」
「良かった早く来てくれて。良く調べたらこの時間新宿御苑まで結構かかるんだ。でもこれからなら約束の時間には問題なく間に合う。」
正志さんが時間にルーズではないことが気に入っていた。
「楓さんは時間にルーズじゃないね。僕ルーズな人ダメなんだ。」
お同じことを感じていた。
・・・嬉しい・・・
「一応仕事していましたし、5分前精神はありますよ。」
少しおどけて言った。
「良かった。」
正志さんは微笑んだ。
電車が来たので乗り込み、二人はたわいのない話をしながら会計事務所に向かった。