帰りに駅の側にある根岸修理店に寄った。

「こんにちは・・・」

「いらっしゃい。・・・あっ、この前の・・・」

「その節はありがとうございました。御親切にしていただきまして。」

「いゃ、あいつがあんたを連れて来たから・・・」

根岸さんは頭に手をやり、少し恥ずかしそうに話した。

「とても助かりました。大切な要件の前でしたので。あの、これ少しですがお礼です。」

有名店のチョコレートを差し出した。

「えっ、これじゃ逆に散財掛けちまったな。」

「いえ、お気持ちが嬉しかったもので。」

奥から小さな女の子が出て来た。

「お嬢さん?」

「そう、まだ3歳になったばかりだ。真理(まり)、ご挨拶は?」

「いらっちゃいませ。」

「あら偉いのね、お店番出来るの。看板娘ね。」

真理ちゃんは恥ずかしそうに根岸さんの足につかまっていた。

「真理、これ頂き物だ。お母さんのところに持って行って。」

チョコレートを受け取り、嬉しそうな顔をして真理ちゃんはバタバタと家の奥に走って行った。

「わるかったな、気を使わせちまった。またなんかあったら言ってくれ。」

「ありがとうございます。今日父の納骨が終わりましたので、もうこちらには来ることはあまりないかもしれません。」

「そうか、それはお疲れさまでした。・・・そういえば、俺たち妙子ちゃんとは同級生なんだよ。」

「えっ、そうなんですか? なんだ、話せばよかった。」

「従妹になるんだよな、妙子ちゃんの・・・」

「はい、私は妙子さんのお父様の弟の子で、一つ年下です。」

「そうか、奇遇だね。」

「ほんとですね、お知り合いになれて良かったです。・・・では私はそろそろ電車の時間がありますので・・・」

「そうか、じぁあ元気でな。・・・そうだ、正志いいやつだよ。気が向いたら会ってやって。」

「はい・・・では、失礼します。」

私は坂口さんの名前が出てドキっとした。


・・・連絡先交換したんだった・・・


帰りの電車から見えた空は、夕焼けの橙と青い空が混ざりあい水彩画のように美しかった。
その移り変わりを眺めながらずっと坂口さんと出会った時のことを思い出し、心を熱くした。