すると、すぐさま肩に手を置かれ、私を強調するように前に出す。
「この子が儂の跡継ぎじゃ。…まぁ、急なことで反感を覚える者もおるじゃろう。
じゃが、とても優秀な子なのでな、必ずやお主らを納得させてみせよう」
言葉が紡がれる度に、琴への期待度がみるみる内に上がっていっている。
そんなにハードルを上げないで欲しい。
私が平凡な家庭で育った普通の人間だという事を忘れてはないだろうか。
特別な能力があるわけでもない、ただ少し運動神経が良いだけの人間なのだ。
学園で迷子になったことから分かるように記憶力もずば抜けて良いわけではない。
幼い頃に死に別れた大好きな両親の顔さえ、私は覚えていない。
思い出そうとすると、二人の顔に白い靄が掛かったようになってしまう。
優しい声や、温かい手の感触だけは辛うじて覚えているのに、顔だけはどうしても思い出せない。
けれど、覚えていることも成長するにつれて薄らいでいく。