麟太郎は琴たちが入ってきたドアと同じところから登場し、
クドに手を貸してもらいながら、杖をついて歩いてステージに上がった。
演説台に立った麟太郎は、琴には見せたことがない威厳に溢れた顔をしている。
会場内の拍手を片手をあげるだけで静める様は、支配することに慣れた人のそれだった。
クドは麟太郎の斜め後ろで、有事の際すぐに動けるように立っている。
「新入生諸君、入学おめでとう。こうして新たに将来有望な若者を迎えられたことは喜ばしい限りじゃ」
話ながら会場を見渡していた麟太郎は、琴を見つけるとニヤリと笑う。
それは如何にも何かを企んでいるといった顔で、琴は嫌な予感しかしなかった。
表情筋は微かにしか動かなかったので、他の人は麟太郎のニヤリ顔には気づかなかったことだろう。
分かる人にしか分からない、絶妙な線をあの人は全て計算してやるから余計に性質が悪い。