「百合。僕、君に何かしたのかな?もし何かしたなら謝るから…」

「な、何もっ、き、金之助くんは何も悪いことなんて…、して、ないよ」

「だったらどうして…」

金之助が百合に詰め寄ろうとした時、遠くの方で早乙先生が宥める声がして金之助の動きが止まる。

「まぁまぁ、あとは入学式後にたっぷり聞かせてもらうんで、もう勘弁してくれませんかね…、そろそろ時間が」

「っ、後で絶対ですよ、逃げちゃダメですからねっ」

ハッと我に返った女性教師が、早乙先生に釘を刺してから案内を始める。

「えーと、ここから先は親御さんや学園の運営に関わる方々も多くいらっしゃいますので、くれぐれも粗相のないように」

「君たちがミスしたら、教師である俺たちが怒られるから頼むぞー」

早乙先生の言葉で笑いが起きる。

ちゃんと注意はしつつ、けれど堅苦しくならないようにして、生徒の心を重くなり過ぎないようにする。

それは誰にでも出来ることではないだろう。

現にさっきまで早乙先生を怒鳴っていた女性教師も「こういう事だけは長けてるんだから…」と、

呆れた顔をしながらも感心した声を出す。

「よし、じゃあ。主従科・A組から順に入っていくぞ」

金之助は名残惜しそうにしながらも自分のクラスの場所へ戻っていった。